最初に認識を改めなければならないのは、
北アフリカのイスラム系武装勢力の脅威が、もはや数年前と比べて格段に強くなり、
脅威のレベルが数段階アップしているという現実です。

 

「アラブの春」によって、エジプトやリビアで独裁体制が崩壊しました。

これは民主化の道を開くものと期待されましたが、
実際にはエジプトではムバラク政権が、リビアではカダフィ政権が、
それまで何十年間にもわたって力で抑え込んできた反体制勢力が解放されたことで
彼らに「春」が来たことを意味します。

この反体制勢力の中にはイスラム系の過激な武装勢力も含まれています。

例えばリビアではカダフィ政権がアルカイダ系の武装勢力を徹底的に弾圧してきました。

世界で最初にオサマ・ビン・ラディンを「危険なテロリスト」として
国際指名手配したのはリビアのカダフィ大佐で、
カダフィは米国などよりも以前からアルカイダと「テロとの戦い」を行っていました。

2001年の9.11テロ以降、米国はリビアとの関係を修復して、
リビアのカダフィ政権を対テロ戦争のパートナーとして
さまざまな諜報協力をしていました。

アルジェリアも同様で、同国の軍や治安機関は
国内のイスラム過激派勢力と長年の闘争を続けてきましたが、
9.11以降米国は一気にアルジェリアを、対テロ戦争の事実上の同盟国に
格上げして、テロ対策の面で支援をしてきました。

とりわけリビアのインパクトは強大でした。
というのも、エジプトの時とは違い、NATO(北大西洋条約機構)軍が
軍事的に介入をして大きな戦争になったからです。

欧米諸国やカタールなどの一部の国々がリビアの反カダフィ勢力を支援するために
大量の武器をこの地域に流しました。

カダフィ大佐はオイル・マネーを使って世界中からさまざまな兵器を
収集していましたから、カダフィ政権の武器庫には、
武装勢力からすれば宝の山のように、とてつもない武器が大量にありました。

そうした武器庫がイスラム武装勢力に襲われて彼らの手に渡ってしまいました。

 

現在シリア内戦において、アサド政権がコントロールしている化学兵器が
反政府勢力の手に渡ったら大変なことになる、と米国が懸念していますが、
リビアではすでに通常兵器の大量放出という事態が起きているのです。

イラクやアフガニスタンの場合は、少人数の自爆テロリストたちが、
大使館のような西側諸国の施設内に侵入して自爆するとか、
迫撃砲を撃ち込んでくるような攻撃がなされています。

しかし、アフリカ諸国では、もしあったとしても
自動車爆弾テロのようなタイプの攻撃だろうと考えられてきました。

そのため現地では、もし自動車で自爆テロが仕掛けられても、
施設の中にいれば安全は保てるようにと
道路から数十メートル離れたところに施設を建設するとか、
フェンスはどれくらいの強度のものにするとかという基準が設けられています。

今回のアルジェリアの事例でいうと、
アルジェリアの治安機関が警備をしている
ガス関連施設自体に攻撃を仕掛けるというよりは、
そうした施設と空港の間を移動中の、外国人が乗った車両を襲うという方法が
これまでのやり方だと思っていました。

今回も最初の攻撃は空港に向かう車両を襲ったようです。

ですから、
「危ないのは移動中であり、いったん施設の中に入ってしまえば安全だ」
と言うのがこれまでの常識でした。

ところが、政府の治安機関が警備を固めている拠点を、
重武装した集団が堂々と襲撃してくるという大胆な攻撃が
仕掛けられるようになってきたのです。

それだけ武装勢力側の能力が向上し、
同時に自分たちの能力に自信をつけて、
より大胆な攻撃をしてくるようになったのだと考えられます

アルジェリアは政府や軍の体質が、
旧ソ連型のような非常に古い圧政政権の体質を持っていますので、
情報公開には非常に消極的です。

しかも公開された情報も操作されている可能性が高いと見るべきです。

 

今回の軍事作戦は、明らかにされている情報で、
襲撃事件発生から12時間後に開始されています。

非常に早い段階で軍事作戦が始まっています。

これは、軍事用語では「緊急行動(Immediate Action)」に近いような作戦です。

緊急行動とは、

急を要する事態に対してすぐにでも対応しなければならない
状況の時に起こす行動のことで、
例えば、人質が次々に殺害されており、
すぐにでも止めなければならない、というような緊急事態が発生した時に、
とにかく、詳細な計画がなくても、今ある情報だけで
突入していくというようなタイプの作戦のことです。

 

アルジェリア軍が突入してきたので犯行グループが人質を殺し始めたのか、
最初から外国人を殺しに来たのか、現時点ではよくわかっていません。

一方では、アメリカに拘束されている彼らの仲間との交換を要求するため、
また、マリに軍事介入をしているフランスに攻撃をやめさせるための取引のために
人質を交渉材料として使おうとしていた、との情報もあります。

 

何らかの取引のために人質を必要としたのであれば、
人質を即座に殺すことは考えられません。

しかし、たとえ緊急行動的な作戦だったとしても、
「人質救出」に重きを置いた作戦とは思えず、
武装勢力の制圧を重視した軍事作戦だったと言うべきだと思います。

実際にこれまでのアルジェリア軍の作戦は、
常に人質の命よりも敵の殺害を重んじる傾向が強いので、
今回もその伝統に沿った武装勢力の鎮圧作戦だったと考えるべきだと思います。

しかし、アルジェリアは1962年の独立後、
冷戦期にはソ連の支援を受けながら独自の社会主義を推し進め、
冷戦崩壊後の90年代は国内のイスラム過激派勢力と激しい内戦を戦い、
何とか独立を維持してきたという経緯があります。

また、2001年9月以降は、対テロ戦争の文脈で米国との関係を修復させましたが、
「アラブの春」の拡大により、自分たちの国でもイスラム武装勢力を中心とした
反政府勢力が燃え上がるのを防ぐのに非常に神経をとがらせていました。

 

特にアルジェリアの現政権は、リビアのカダフィ政権とは非常に近く、
西側諸国のリビア介入には反対していたこともあり、
カダフィ政権を崩壊させた西側諸国に対する不信感を強めていたことでしょう。

 

リビアで反カダフィ勢力が政権をとった訳ですが、
この戦争を通じてAQIMを含むイスラム系武装勢力の力が拡大し、
アルジェリア内の反体制勢力も勢いを増していたため、
危機感を持っていたと思います。

そんな中で、今回のAQIM系のイスラム武装勢力によるテロを受けて、
とにかく事件の長期化と拡大を防ぐために、
迅速に反乱拡大の芽を積んでしまおうと考えても不思議はないと思います。

 

もともとこうした歴史的な経緯から外国からの干渉を
非常に嫌う傾向の強い国ですから、
欧米諸国から支援をしてもらうとか
助言をもらうといった発想はなかったと思います。

それよりも早期に圧倒的に敵をかい滅して、これ以上のイスラム武装勢力が
拡大することを防ぐことに主眼が置かれたのではないかと見ています。

 

アルジェリアも含めてアフリカ諸国では、民間の警備会社は
非武装の警備しか認められていません。

武装警備という点ではどうしても当該国の治安機関に
依存しなくてはならない部分があります。

 

今後の対策としては、例えば、
施設の中にも自社の社員たちが万が一の時に隠れることのできる
シェルターを設置したり、

非武装のセキュリティ・マネージャーを増やして
早期に事態を把握できるようにしたり、

各自にアラームやGPS装置などを持たせてすぐに連絡をとったり
居場所を把握できるようにしたりする必要があるでしょう。

また、車両で移動する際にも、
国の治安部隊の車両にエスコートしてもらうだけでなく、

例えば、偵察用の車両が数百メートル先を先行してルートを偵察して
安全確認をしてから自分たちの乗った車両が進むようにするとか、

イラクやアフガン並みのセキュリティ対策を検討する必要があるでしょう。

そして、日本政府に対して言えることですが、
こうした緊急事態が発生した時の情報収集のためのルートや
ネットワークができていません。

何か起きてからでは遅いのです。

ネットワークとはそういうときに機能させるために普段からお金をかけて
築いておかなくてはいけません。

例えば、アルジェリアだけでなく、
少なくても邦人企業が多数進出しているような国であれば、
リスクの高い場所であっても、とにかく情報収集のための要員を派遣しておく。

別に秘密のスパイ活動をするのではなく、
現地で根を張ってそれぞれの地域の政府関係はもちろんのこと、
メディアだとか有力なビジネスマンたちと関係を構築しておく。

具体的には定期的に会って話を聞いたり、レポートを書いてもらうなどして、
その費用を支払う。
普段からそのような関係をつくっておけば、いざというときにも動いてくれます。

政府は今回の事件を受けてアフリカ諸国に防衛駐在官を増やすことを
検討しているようです。

もちろん防衛駐在官を増やすのはいいことですが、
彼らはあくまで当該国の軍関係者からの情報収集しかできませんし、

彼らの行動にはいろいろと制約がありますから、情報収集にも限界があります。

ですから、それ以外にも民間を含めて幅広い情報が収集できる態勢を
本気でつくっていかなくてはなりません。

アルジェリアにおける日揮のネットワークとその情報収集能力は、
日本政府など比較にならないほど凄いはずです。

それでもこのような事態に陥っていることを重く受け止める必要があります。

北アフリカのイスラム系武装勢力の脅威は、もはや新たなフェーズに
レベルアップしています。

今後、情報収集を含め新たな脅威に応じたセキュリティ体制の構築に
官民を挙げて全力で取り組まなければなりません。