香港では毎年、6月4日の午後8時からヴィクトリアパークで、
天安門事件の犠牲者を追悼する大規模集会が開かれています。

参加者はろうそくに火をともし、みんなで歌を歌い、
黙祷を捧げながら天安門事件で命を落とした学生たちの魂を鎮めると同時に
中国本土の民主化を願います。

昨年は25年という節目で、18万人が参加したのですが、
今年の参加者は13万5000人と大幅に減少しました。

追悼集会を主催する香港市民支援愛国民主運動連合会の発表によると、
昨年は天安門事件から25周年という節目の年でもあり、
参加者数が過去最高を記録したのは自然なことで、
その意味で今年の参加者数が減る可能性は、ある程度予測していました。

そうは言うものの、今年の追悼集会への参加者数は昨年に比べ25%も減り、
2008年以来の少なさになってしまったのはなぜでしょうか。

香港市民の間で、民主化に対する関心が薄れているのかというと、
そうではありません。

船曳さんは、昨年9月末から大学生が中心となって
大規模なデモを繰り広げたことを覚えているでしょうか。

デモが起きた原因は、同年8月末に
中国の全国人民代表会議(全人代)の常務委員会が、
2017年以降の香港政府のトップである行政長官に立候補するには、
「指名委員会の半数以上の委員の推薦が必要」との条件を盛り込んだからでした。

指名委員会は中国共産党の意を受けたメンバーが多数を占めているため、
指名委員会の推薦が必要となると、民主主義を求める人物は
事実上、排除され立候補できなくなることを意味します。

そのため、一国二制度の下で自治権が認められていたはずと
考えていた香港市民の間では、この選挙制度に対する失望が広がりました。

なかでも、大学生や高校生を中心とした若者たちが強く反発。
大学の講義や学校の授業をボイコットし始め、
さらに大規模なデモをしたり、香港の経済の中心地である
中環(セントラル)の一角を占拠したりして、
3カ月にもわたって抗議活動を展開したのは記憶に新しいことです。

そうした動きを踏まえれば、
中国の民主化を求める今年の追悼集会には、
昨年の25周年にも増して人が集まってもおかしくはなかったはずなのです。

ですが、
追悼会への参加者数は減ってしまいました。

背景には、香港における民主化を求める運動が、
ここへ来て変質してきていることがあるようです。

では、追悼会の参加者がなぜ減ったのか

それは、「分裂です」

香港の民主化運動が、その求める民主化の内容の違いによって
分裂してきているのだそうです。

最寄駅からヴィクトリアパークまでの道では、民主化を訴える様々な団体が
道行く人にビラを配っています。

様々な団体ということは、意見の違いがあるということで、
民主派分裂の象徴とも言えるものです。

まず従来から香港民主派を自称してきた一派の主張は、
「中国本土の民主化を願い、進めること」です。

若かった頃、大陸で何らかの民主化運動に加わり、
そのために政府から厳しい弾圧を受けるなどしたことから、
当時はまだ英国統治下にあって自由が保障されていた香港へと
逃れてきた人が少なくないのですが、

今や年配になったとはいえ、そうした香港人の多くは
本土の民主化を心から願っているのです。
だからこそ、中国政府による武力弾圧で犠牲になった天安門の学生たちを
今も追悼したいとの思いから毎年、6月4日に集っているのです。

ところが、学生を中心とした若者たちが求める民主化の主張は異なります。

昨年のデモで中核的存在となった香港大学など複数の大学の学生会は
今年、天安門事件の追悼集会への不参加を事前に表明していました。

中国本土の民主化ではなく、
自分たちが住むこの香港の民主化の維持、発展にこそ
集中すべきだ、というのが彼らの主張なのです。

香港の民主化を重視する一派の中には、
さらに香港そのものの独立を目指すべきだとして、
抗議活動を展開している強硬派グループも誕生しています。

年配の世代は自らの過去を振り返って中国本土の民主化を願い、
若い世代は自分たちが暮らしていく今後の香港の民主化を願う。

今後の行政長官選挙の在り方が明らかになった昨年以降、
こうした世代間ギャップが、これまでひとくくりに論じられていた
民主派を分裂させているというのが現状のようです。

背景には年々、香港への圧力を強めつつある
北京政府の動きに対する不安が高まっているのは間違いない事実です。

それを身近に感じているのは若年層です。
例えば、2012年、中国共産党は香港政府に対して、
中国国民としての愛国心を育む「愛国教育」を導入するよう求めました。

教育という仮面をかぶった洗脳には、
教師や保護者だけでなく中高生も強く反発、
香港の街中で住民も巻き込んだデモを起こし、
愛国教育義務化の撤廃に持ち込んだということがありました。

自分たちがこれからの人生を送る香港の自由が侵されるのであれば、
将来に不安を感じるのは当然ですが、年配者にとっては
「若者の抱く将来への不安」を理解するのは難しいかもしれません。

民主化を求める運動が分裂すればするほど、
1つの抵抗勢力としては弱体化します。

民主派の弱体化は中国政府の思うつぼです。

本来、そうした逆風の時こそ市民の一致団結が求められるのですが、
民主派の分裂により、香港市民が懸念する急速な中国化にむけて、
自らこの流れを早めることになるのではないでしょうか。