7種類の豆腐が米国人を魅了

今から約30年前、ある食品メーカーの社員がロサンゼルスに降り立ちました。
それは、ハウス食品。
ハウス食品と聞いて、カレーを思い浮かべない日本人はいないでしょう。
同社は米国でカレー事業を広めるために1981年、ロサンゼルスに営業所を設立。
1983年にはカレーを提供するレストラン事業を開始し、実店舗をオープン。
現在も同市内のリトルトーキョーなど西海岸に11店舗を運営しており、
2011年12月期の利益は約10億円。
今期も増収を見込み、「ジャパニーズカレー」は米国にも着実に根づいています。
でも、ハウスは同じ1983年に、もう1つ布石を打っていました。
それはカレーとは似ても似つかぬ「豆腐」です。
豆腐事業の現在の売り上げは、2011年12月期で45億円。
今期は前年同期比116%の52億円を見込み、
同社の海外事業において一番の柱になっています。
日本で、1972年にパウダー状の大豆とにがりをセットにして、
自分で豆腐を作るタイプの「ほんとうふ」が売られたのを覚えていらっしゃるでしょうか。
私は何度も作ったことがあります。
布石はここにありました。
現地での歴史的な背景はここでは割愛しますが、
まずはロサンゼルスで製造販売を始め、西側では圧倒的なシェアを確保しました。
でも、欠点があったのです。
それは日持ちがしないこと。
そこで、広大な市場である米国で展開できるよう豆腐の製法を変えて、
大幅に賞味期限を延ばしました。
「熱湯で数十分湯通しした後、冷却水で急速に冷やし、
温度差で菌の増殖を抑えるようにしている」
(ハウス食品国際事業本部国際事業推進部次長・渡辺昭生氏談)。
この製法で賞味期限は65日と各段に長くなりました。
しかし、大きな消費地である東側へ輸送するのは非効率なため、
2006年にニューヨークの対岸、ニュージャージー州に新工場を設立。
米国全土への展開が可能になったことで売り上げも大きく伸び、
ついには米国NO.1豆腐メーカーの座に上り詰めました。
米国で人気の豆腐料理の一つは、「野菜炒め」。
角切りにした豆腐を野菜と一緒に炒めたもので、ヘルシーな料理として
人気が高いんです。
ほかにもつぶしてひき肉代わりにして調理したり、
果物などと一緒にミキサーにかけてドロドロのスムージー風にしたりと、
日本ではまず考えられない使われ方をしています。
このニーズに応えるため、ハウスは7種類もの硬さの豆腐を用意しています。
日本の木綿豆腐程度の硬さである「ミディアムファーム」を中心として、
硬い方は「ファーム」「エクストラファーム」「スーパーファーム」、
柔らかい方は「ソフト」「エクストラソフト」「スーパーソフト」
といった具合です。
ちなみに、ソフトが日本の絹こし豆腐程度だそうです。
柔らかいものはスムージーに、硬いものは炒め物などに、と、
多様な調理法に対応しています。
切らなくてもよいダイス状の豆腐も売られています。
豆腐はヘルシフードとして受け入れられてきましたが、
もう一つ「しらたき」も販売していました。
これが米国の人気料理研究家の目に留まり、
2006~7年ごろからダイエットフードとして利用され始めていることに
気づきました。
そこでハウスは、しらたきに豆腐をまぜた「豆腐しらたき」を開発、
これが大当たりとなったのです。
フェットチーネやスパゲティーなどパスタ風に見せたことも功を奏して、
「豆腐しらたき」の売り上げは大きく伸びました。
「麺」の形状に応じて3種類を販売しており、
ここ2~3年でも前年比170%の成長を続けています。
今後のテーマは成功事例の「横展開」です。
カナダには既に一部展開をしていますが、次の狙いは欧州。
3年ほど前に英ロンドンに事務所を立ち上げ、
現在は現地の食生活やニーズなどを調査中。
豆腐に限らず、新たな展開を模索しているそうです。
米国で日本の食材を普及させるハウス食品。
考えてみれば、彼らのカレーももともとはインド料理です。
海外の商品や文化を日本に広め、日本の商品や文化を海外に広める。
これがハウス流の勝ちパターンと言えそうですね。
ひるまず海外に打って出る度胸のある企業だけが、
その成功の果実を得られるのでしょう。