第5回アフリカ開発会議で、日本政府は今後5年間で最大3.2兆円の
官民支援を打ち出しました。
そのうち政府開発援助(ODA)として拠出する1.4兆円は、
過去5年間(9000億円)と比べ1.5倍以上の増額となる見込みです。

横浜宣言では、「民間セクター主導の成長」を掲げ、
「援助」から「投資」へと重点を移し、日本とアフリカが
「コ・マネジャー(共同経営者)」となるような関係を目指すとしました。

日本政府のこの巨大な官民支援策を受けて、
今後、多くの日本企業がアフリカ・ビジネスへの取り組みを強めることになるでしょう。

しかし、やはりここで気になるのが、1月のアルジェリア・テロ事件に代表される
一部地域における治安の問題です。

このアルジェリア・テロ以降、日本のメディアではこの地域のニュースが
めっきり少なくなっていますが、だからと言って状況が好転したわけではありません。
むしろサヘル地域(サハラ砂漠南縁部)の不安定化は進んでおり、
さらなる警戒が必要になってきています。

5月23日にはニジェール中部にあるフランス原子力大手企業アレバ社などが運営する
ウラン鉱山とニジェール政府軍基地で自爆テロが発生し、30人近くが亡くなっています。

ニジェール → http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/niger/

このテロ事件では、アルジェリア・テロの首謀者であった
モフタール・ベルモフタールが犯行声明を出したことで世界の注目を浴びました。
チャド軍が、殺害したと発表しましたが生きていたようです。

サヘル地域におけるイスラム過激派武装組織の勢力は、
マリ北部でのフランス軍の軍事作戦にもかかわらず、全くおさまる様子を見せていません。
逆に、イスラム過激派武装勢力がマリ北部を離れ、近隣諸国で再び結集して
組織の再編をはかっていると見られています。

特にマリから1000マイル離れたリビア南西部に過激派の拠点ができており、
小規模ながら訓練キャンプのようなものまでできているようです。

5月23日にオバマ大統領は、米国の対テロ戦略に関する演説で、
テロの変化と脅威について語りました。

つまり、かつてのアルカイダのように一定の国に聖域を構え、
そこを基地として世界にネットワークを広げ、各地で米国の権益に対するテロを企て、
米国本土でまで大規模なテロを企てようとする国際テロから、
よりローカライズされた地域限定、一定の国内限定の過激派組織というように
脅威のタイプが変わってきている、というのです。

そしてこのような、地域限定の過激派組織が、
それぞれの地域に派遣されている米国人、米政府の施設や米国企業の権益などを
襲撃する危険性が高まっている、とオバマ大統領は指摘しました。

昨年秋以来の情勢を見てみると、確かに2012年のリビア・ベンガジにおける
米政府施設への襲撃、今年1月のアルジェリアにおける天然ガス施設、
そして今回のニジェールにおけるウラン施設への攻撃は、
このようなトレンドに沿った攻撃だったと考えていいでしょう。

「イスラムに対して戦争を仕掛けている」と見なしている地域限定の過激派組織が、
米国やフランスだけを狙った「報復テロ」を仕掛けるだけであれば、
日本人や日本企業が襲われる可能性は高くはないのですが、
その活動資金として身代金誘拐という手段をとっていることから、
日本人や日本企業も無関係ではいられないのです。

つまり、日本企業は過激なテロリストの主要なターゲットにはならないかもしれませんが、
その活動を支える身代金誘拐のターゲットにはなるということです。

米政府の中でテロ組織の資金に関するインテリジェンス活動を専門とする
コーヘン次官は、テロ組織がその資金稼ぎとして身代金誘拐を多用するようになっており、
テロのリスクと誘拐のリスクが融合している実態に警鐘を鳴らしています。

コーヘン次官によると、過去10年以上に及ぶ対テロ戦争の結果、
パキスタンを拠点とするいわゆる国際テロ組織「アルカイダ」
中核組織のテロ資金は枯渇し、組織の活動も退潮したが、これに代わり
北アフリカやイエメンのアルカイダが資金的にもよりパワフルな存在として
台頭してきているといっています。

そしてその理由の1つが「身代金誘拐により資金が豊富になったことだ」と述べています。

米政府はテロ組織が過去8年間で1億2000万ドル相当の身代金の支払いを
受け取っていると試算しており、
「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」は、数千万ドルを身代金誘拐で稼ぎ、
「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)も2009年以来身代金誘拐に力を入れて
数百万ドルを手にしたと分析しています。

「地域限定」のテロ組織などと侮ってはいけないのです。
実は本家本元のアルカイダよりも、AQIMやAQAPなどの
「ローカル・アルカイダ」の方が豊富な資金を得てテロ活動を行っているというのです。

こうしたテロ組織による身代金誘拐が活発になるに従い、
身代金の額も年々上昇傾向にあるそうです。

2010年にはAQIMに支払われていた人質1人当たりの身代金は
平均して450万ドルと言われていましたが、2011年にはそれが540万ドルに
増加したといいます。

コーヘン次官によると、こうして手にした資金で、AQIMなどのテロ組織は、
「人員のリクルート、新しいメンバーの洗脳教育、給与の支払い、訓練キャンプの建設、
武器や通信機器の購入など、その多岐にわたる活動全般を活発化」させており、
その攻撃能力を増大させているというのです。

つまり、潤沢な身代金により次世代の暴力的な過激派が生まれているという訳です。

またこうした資金を使ってほかの過激派組織を買収して傘下に加え、
地域的なリーチを広げ、文字通り勢力を拡大させています。

そして、この拡大する活動を支えるために、さらに身代金目的の誘拐を重ねるという
循環が起きているのです。

今後アフリカへの官民支援が拡大するのに伴い、日本が取り組まなければならない
大きな課題がまたひとつ増えました。