ユーロ圏は4月、過去最悪の失業率を更新しました。

その中、ユーロ圏で4位の経済大国、スペインの失業率は最悪のギリシャに次いで

30%に迫る勢いです。

 

ところが、そのスペインで成長を続けている企業があるのです。

失業率が25%を超えた昨年、4000人もの新規雇用を果たした大手スーパーチェーン

「メルカドーナ」です。

2002年に9.4%だった市場シェアは19.2%にまで拡大しています。

 

いったい、メルカドーナはなぜ強いのか。

 

まず映像もご覧ください。

http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/globalwatch/post_38198/

 

 

幹部候補生の研修会場で、その場にいた31歳の男性幹部候補生に、

「ここで働いていて、ハッピーですか?」 と質問を投げかけると、

彼は「もちろんですよ!」と満面の笑顔で即答しました。

 

満面の笑顔で「幸せです」と話す男性社員

 

そこに垣間見えたのは、失業に怯え、将来に不安を抱えるスペイン市民の姿ではなく、

会社の未来を担う自信と誠意に満ち溢れた社員の姿でした。

 

メルカドーナの強さの秘密は従業員にあります。

昨年入社した4000人に加え、既存の従業員7万人の全てが正社員です。

スペインの労働組合によると、ほかの小売りチェーンでは

平均して6割ほどの従業員がパートタイム契約で、

その実態と比較すれば、メルカドーナは極めて特異な存在なのです。

 

しかも、メルカドーナの賃金は競合他社に比べて割高で、

入社4年目の販売員1人当たりの月給は国内平均より

400ユーロ(約5万1000円)ほど高いのです。

 

社員研修にかける費用も年間4400万ユーロ(約56億1000万円)、

時間にして200万時間で、米国の一般的な同業他社と比べて、

研修に約20倍の投資を行っているとも言われています。

 

当然のことながら、不透明な雇用体系やサービス残業など、

働く人間が会社の姿勢を疑問に抱くような制度も存在していません。

 

去年、メルカド―ナは目標達成を果たした社員たちに対し、

総額で2億4000万ユーロ(約304億円)のボーナスを支給しました。

その上、政府が引き上げた所得税増税分を補填する目的で、

追加で2300万ユーロ(約29億円)を支払っているのです。

 

メルカドーナは1977年、精肉店から転じてスーパーとなったファミリー企業で、

1981年には8店しかなかったのですが、30年後の現在では

全国で1400店以上にまで拡大しています。

 

転機が訪れたのは1990年代初頭のことです。

仏カルフールなど海外の大手小売りの参入が相次ぎ、競争が激化しました。

これに対し、メルカドーナのホアン・ロイグ社長がとった対策は思い切ったものでした。

 

1995年から99年にかけ、当時、従業員の6割ほどを占めていたパート社員全員を

正社員にしたのです。

 

きっかけは、社長のロイグ氏が店舗を訪れた際に目撃した衝撃的な現実でした。

商品を持ち帰るパート社員が多く、カバンを勤務終了後にチェックした姿です。

 

「雇用が安定すれば、従業員は積極的に仕事に携わってくれる。

社員に求めているのは単純労働ではなく、心や頭脳を駆使してアイデアを生み、

仕事に情熱と努力を注ぐことだ」という方針からです。

 

厚遇の例をいくつか挙げてみます。

 

まず、メルカドーナの社員は7割近くが女性ですが、

一部の主要都市では、社員の子供は同社が運営する幼稚園に無償で通うことができます。

 

また、産休については公的に定められた4カ月に加えて、

会社がさらに1カ月長く休むことを認めています。

 

さらに、従業員の生活と労働のバランスを保つ目的で、日曜に営業は行いません。

勤務地は、社員の自宅から最も近い場所と決められています

 

例えば、部下が地元の祭りに参加したいという理由で1時間の早退を求めた場合でも、

快くそれを許している。

その代わり、繁忙期には、急な応援の要請にも応じてもらっているそうです。

 

日本ではあまり考えられない理由で会社を早退する場合でも、

気持ちよくそれを許すことで、いざという時には積極的に

社員に助けてもらっている姿がありました。

 

仕事と生活のバランスを認める事が、社員のモチベーションを高く保つ。

 

これを敏感に察知するのは、ほかでもない消費者です。

 

店舗でインタビューをした複数の客は

「メルカドーナでの買い物は、家にいるような居心地の良さ」

「ここで働く人を見ていると、みんな幸せそうに見える。」

「働く人が快適な思いをしていると、客への気配りにも表れる」と語ってくれました。

 

 

もし、この不況下で、メルカドーナがコストカットの一環で人減らしを始めていれば、

社員のやる気も削がれて、さらなる悪循環に陥っていたでしょう。

会社は、財産である社員に対しては経費削減を行わないのだといいます。

 

社長のロイグ氏はパート社員の正社員化に加えて、

同社の最重要課題を「顧客満足度の向上」と明確にしました。

それ以来、メルカドーナでは顧客を「ボス」と位置付けています。

 

いかに客に満足してもらえる商品やサービスを提供するか、

これがメルカドーナ全社員への至上命令なのです。

 

ではいかに「ボス」を満足させるのか。

 

店を訪ねると、店員はその場所まで一緒に行って商品を指し示すだけでなく、

調理の仕方まで説明しています。

 

客のニーズに応えるため、130人以上の「モニター」と呼ばれる

顧客調査を専門にする社員たちがいます。

 

ある日、来店客の1人が「メルカドーナ製の化粧用コットンの綿がほつれやすく、

気に入らない」と店員に訴える場面に遭遇。

店舗に併設された「イノベーション・センター」に案内し、「ボス(顧客)」の声に

耳を傾けて商品の改善策を探るのです。

 

また、昨今の危機下では、当然ながら消費者の関心はもっぱら価格に集まる。

メルカドーナは、一時的な「お買い得商品」を出すよりも「常に低価格」を目指し、

商品の4割ほどを自社ブランド製品にしています。

 

メルカドーナは商品開発において、容赦ないコスト削減を行うことで知られており、

「ボス」の意見を基に良質な商品を瞬時に開発・商品化し、

かつ低価格を維持し続けるには、取引先との信頼関係が不可欠です。

 

そのため、メルカドーナは取引先と長期契約を結ぶなどして、

無理も聞いてもらうのだそうです。

 

メルカドーナのビジネスモデルは5つの柱で支えられている。

(1)客である「ボス」、

(2)事業を担う従業員、

(3)取引先、

(4)社会、

(5)株主    だ。

 

ここがメルカドーナの面白いところ。

他社のように、まず株主を第一と捉え、そこからビジネスモデルを構築するのではなく、

あくまでも客、そして従業員を大事にしています。

そうすることが、最終的に株主の満足にもつながると信じているとのこと。

 

 

ただし、この「メルカドーナモデル」を他社にも導入することで

スペイン経済を救えるかといえば、そうでもありません。

 

まず、このモデルを構築するには取引先との信頼関係の強化など、

少なくとも数年を要するものです。

さらに、会社の経営状態が健全なうちは機能するモデルですが、

業績が悪化に転じた場合には、すべてを正社員だけで賄うのは

困難だとの指摘もあります。

 

つまり、業績が成長し続けなければ回らない仕組みというわけです。

 

景気低迷の続くスペイン経済にあって、「メルカドーナの幸せな職場」は

どこまで快進撃を続けることができるでしょうか。