米アップルが7月に、日本を含む複数の国・地域で「iWatch」という名称で
商標登録を出願していることが明らかになりました。

その名前から、腕時計型の、身につけて使用する超小型端末
(ウエアラブルコンピューター)を開発し、市場投入を考えていることが推測できます。

同社は発売前の製品に関して一切コメントを出しません。
そのため詳細は現時点で不明ですが、出願済みの特許などから、
その姿はうっすらと見えてきます。

新端末が成功するかは、iPhoneなどで実践してきた
「必勝パターン」にもちこめるかにかかっています。


ウエアラブル端末向けの要素技術は熟成してきています。

例えば携帯機器向けCPUや無線トランシーバーIC、
通信制御LSIなどは、処理性能を高めた上で実装面積を小型化し、
さらに消費電力も抑制しています。

電池は、大容量で継ぎ足し充電による劣化が少ないリチウムイオン電池が
主流となっています。

ディスプレーは、面積は同じでも表示できる情報量を増やすよう解像度が
上がっているほか、基板や表面のカバー層にプラスチックを採用することで、
くねくねと自在に曲げられる「フレキシブルディスプレー」も実用化しつつあります。


米グーグルは13年4月に、眼鏡型端末「グーグルグラス」の試作版を
開発者向けに発売しており、一般向けにも2014年に提供を始めます。

ソニーモバイルコミュニケーションズも、同社製スマホ専用のオプション製品という
位置付けながらも、メールやツイッター、フェイスブックの閲覧機能、
音楽再生機能などを備えた多機能腕時計を製品化しています。


アップルが、「iWatch」でこの分野に参入とすると、
気になるのはどんな製品を企画し、どんな普及シナリオを描いているのかですね。


携帯音楽プレーヤー「iPod」からスマホ「iPhone」、
タブレット(多機能携帯端末)「iPad」に至るまで、
アップルは共通の戦術を用いて新たなハードウエアやプラットフォームの浸透を
実現させている。いわば「必勝パターン」を持っているわけです。


一般消費者に対する必勝パターンは、

(1)外観や画面のデザインを徹底的に磨き上げ「格好良い」と思わせ所有欲を刺激する

(2)価格やバッテリー駆動時間、使い勝手などで欠点をつくらず、
消費者が購入後に不満を感じないよう実用性を確保する

(3)広告などを通じて新たな使い方を提案するとともに、
将来に向けてさらに使い方が広がると消費者が期待する機器の可能性をアピールする

――という3点です。


一方、アプリ開発者やコンテンツホルダーに対しては、

(4)多くの消費者が購入する見込みを示し、アップル主導のエコシステムに
参加することで大きな収益と知名度向上などを見込めると思わせる

(5)対応アプリの開発がさほど難しくなく、対応が容易であるとアピールする

(6)アップル製品というプラットフォームに各社が開発するアプリなどを
組み合わせることで、多様な用途に活用できるという潜在力や汎用性を訴求する

――といった点が挙げられます。


絶好調に見えるアップルとて、エコシステムは必ずしも盤石ではなく、
手数料の高さや審査の厳格さ、ときどき発生する突然の運用変更など不便な面もあります。

それでもアップルが有利なのは、ハードウエアで他社に圧倒的な差を見せつけ、
他社の追随を許さない、または追いつくのに長期間かかるという、
いわば「先行逃げ切り」の競争環境に持ち込んでいるからです。


では今回はどうか。

 アップルが米国で特許出願した書類を基に『日経デザイン』誌が予測した記事によると
iWatchは

(1)曲げられるフレキシブルディスプレーを採用する

(2)CPUや電池などの集積部がディスプレーに隠れるようにして、
外観上は一周ぐるりとディスプレーになる

(3)ディスプレーを本体の表面だけでなく裏面にも回り込ませることで、
外観上はディスプレーの左右の縁がないように見せる

(4)腕に巻き付けた状態だけでなく、ぴんと伸ばして板状でも使えるよう
双安定バネを採用する

(5)待ち受け時に表示する色やデザインをカスタマイズするアプリを提供する

――といった特徴を持つものを研究しているようです。


仮にこのアイデアが現実のものとなれば、
外観の全面がディスプレーという構造は差異化の大きなポイントになるでしょう。

待ち受け状態のデザインを自在にカスタマイズできるほか、
限られた本体サイズでも、表示可能な情報量を増やせます。

また細長い画面とすることで、電光掲示板のように文字を流して表示するアプリを
開発しやすくなります。

潜在力の大きさや汎用性の高さという点で開発者に強烈にアピールできそうです。


アプリ開発の難易度については、視認可能なディスプレーの横幅が装着する人により
変わるという点で難しさがあるかもしれない。

また、例えばメールや交流サイト(SNS)のアプリなどでは、
iWatchの小さな画面で長文の文字入力をタッチ操作で行うのは難しいとみられ、
音声入力などでどの程度の実用性を確保できるかが課題となりそうです。

米アップルの株主総会で、CEOのティム・クック氏は
「新たなカテゴリーの商品を計画している」と語っています。
これらの点を除けば、表示デバイスは単なる長方形の細長いディスプレーとも
いえます。
巻き付けた状態でディスプレーをどう活用するかというアイデアさえ浮かべば、
開発はさほど困難ではないでしょう。

残る課題は、iWatchがどの程度売れて、
アプリ開発者にとって対応アプリの開発がどの程度収益性に結びつくかという点です。

そのためには、上述のような特徴を備えた製品をどの程度のコストで量産でき、
どの程度の小売価格を設定して、どの程度コンスタントに出荷できるか、
がポイントになるでしょう。


価格の予測ですが、
米国でブームとなったブレスレット型の活動量計は、おおむね100~150ドル程度。
iWatchは、デザインの革新性と汎用性の高さを考えれば、
これらの製品よりある程度高くても消費者の支持を得られるでしょう。

 一方、iPod touchの米国での小売価格は229~399ドル。
これを大幅に上回る価格帯になると、購入を検討する消費者が少なくなる恐れがあります。


記者は、iWatchの小売価格は300~500ドルといった水準になると予測しています。
急速に市場を席巻し競合他社に差をつけることを重視するなら300ドルに近い水準、
完成度の高さやハードウエア販売による着実な収益を重視するなら
500ドルに近い水準をそれぞれ狙うとみているそうです。


米国をはじめとする先進国市場において、iPhoneの先行者利益が薄らぎつつあり、
アップルは韓国サムスン電子などアンドロイド陣営の猛追を許しています。
欧州市場でもiPhone5の販売不振が明らかになるなど、
右肩上がりだった業績が曲がり角に差し掛かっています。
それだけに、未開拓の新市場であるウエアラブル端末でアップルがどう足掛かりを築くかに高い関心が集まっているのです。

iWatchが好調なスタートダッシュを切れば、iPodやiPhone、
iPadのときと同様、アップルは莫大な先行者利益を手にすることになるでしょう。

とはいえ、消費者もアップル製品に対して目が肥えつつあります。
製品化の時期が市場の期待より何年も遅れたり、
前評判を裏切るような中途半端な製品を出したりすれば、
今後の業績にも影を落としかねません。

iPhoneやiPadに慣れきった消費者をうならせるデザインや使い勝手を実現し、
過去の必勝パターンをiWatchで再現するには、
アップルが越えるべきハードルは高いでしょう。