4月24日、バングラデシュの首都ダッカの近郊で
8階建てのビルが崩落したニュースはご存知だと思います。

このビルには主に縫製工場が入り、多数の労働者が働いており、
崩落によって1000人以上が亡くなり、けが人も2400人以上に達しました。

崩落したビルは違法な増築をしており、事故の起こった4月24日には、
工場内で停電が起こったそうです。
この停電から復旧した直後、工場内のミシンが一斉に振動したことが、
崩落の原因と見られています。

事故を受け、首都ダッカでは、労働環境の改善を求める
労働者によるデモが相次いでおこりました。

そいうこともあり、工場の安全性を確認するため
国が一時的に工場を閉鎖させるなどの対応策もとられたということです。

バングラデシュは、本当に「貧しい」国です。

インドネシアやタイ、ベトナムといったアジアの国々と
「貧しさ」のスケールが違います。

車道はクルマと力車で溢れています。
ほかの国でも車が溢れているのは同じでも、
バングラデシュには他国のような一定レベルの交通マナーが存在しないうえに、
車線の概念もありません。

クルマ2台分の車幅の道路に、その倍のクルマが「おしくらまんじゅう」のように、
ひしめいています。

当然、慢性的な渋滞が起こり、それぞれのクルマはひたすらクラクションを
鳴らし続けているという現状です。
道路にはあらゆる場所に段差があり、そこを通るたびにクルマが大きくひずみます。

「世界最貧国」の1つと言われるバングラデシュ。
北海道の約1.9倍という小さな国土には、約1億4800万人が住んでいます。

1人当たりのGDPは755ドル(2011年、バングラデシュ財務省の資料)で、
実質GDPは1106億ドル(2011年、世界銀行)だということです。

縫製産業などが活況を呈しているため、毎年5〜6%のGDPの成長率を誇っていますが、
それでもダッカの法定最低賃金は50ドルを切っています。

法定最低賃金は、中国内陸の武漢でも150ドル以上、
インドのニューデリーやベトナムのホーチミンでも100ドル近いことを考えると、
極端に貧しいことが分かるでしょう。

貧しいバングラデシュにとっての収入の柱は3つあります。
農業と、出稼ぎによる海外からの送金、そして縫製産業です。

海外に売れるような資源はなく、電力の供給が不安定なので
重工業の工場誘致も進みません。

結局、安価な労働力と停電にも耐えうる産業として縫製工場が増えていきました。

バングラデシュ国内では、衣料産業に携わる人は400万人に達し、
周辺産業まで含めるとその数は700万〜800万人に上っています。

バングラデシュの総輸出量に占める衣料品の割合は
実に8割以上を占めているという事実を見ても、
縫製産業の存在は際立つことがわかります。

しかし、バングラデシュにおける縫製産業の歴史は決して古くはないのです。

欧米のファッション業界が低コストの生産地を求めて
バングラデシュを活用し始めたのは1980年代のことです。

その後、韓国勢や中国勢が参入し、中国の人件費が高騰し始めた2000年代からは
日系企業も進出しています。

欧米、アジアの先進国がバングラデシュの地元企業家に投資をし、
ノウハウを提供して、この国の縫製産業はやっと成長をし始めたのです。

そして今では、「世界の縫製工場」とまで呼ばれるようになりました。

雑居ビルの数フロアで数百人が働く小規模工場から、
グループ全体で数万人の工員を抱える工場までの
あらゆる規模の工場を訪れた取材レポートによると、

工場では安い人件費を生かして、多くの工員が単純な手作業を繰り返しています。
例えばデニムのダメージ加工からTシャツのペイント、
裁断・縫製すべてが、工員の手作業で進められています

バングラデシュの安い労働力を生かした縫製産業には、
これまで批判や非難もつきまとってきました。
低賃金でバングラデシュ国民を搾取している、
または児童労働をさせているというような懸念があるからです。

これらを払拭するため、欧米の大手ファッションチェーンは
バングラデシュ国内の取引先に対し、様々な労働環境順守の条件を出してきました。
しかし、そうした配慮を重ねてもなお、今回のようなビル崩落事故が起こりました。

今回の事故を受けて、EU(欧州連合)は
「一般特恵関税制度(途上国からの輸入品への関税を減免)」の対象として、
バングラデシュの適用を見直すことを示唆しました。

「発展途上国に関するサプライチェーンについて責任ある管理を促すため、
一般特恵関税制度などの適切な対応を検討している」というのです。

これまでバングラデシュを重要な生産地としてきた
欧米ファッションチェーンも姿勢を変えはじめました。

報道によると、ZARAなどを展開するスペインのインディテックスは、
バングラデシュで生産する下請け会社との取引を中止したということです。

スウェーデンのH&Mも、ビルの防火対策などについて、
他の利害関係者とともに協議していると声明を出しました。

H&Mは、昨年、バングラデシュでの生産量を
今後5年で約2倍に増やすと発表したばかりにも関わらず、です。

このように、バングラデシュでは、外資企業がにわかに撤退し始めているのです。

確かに進出企業にとって、今回のビル崩落事故は、
ブランドイメージを大きく毀損しかねない事件です。

工員を危険な状況で働かせたうえで作られた製品であれば、
購入しないという消費者が増える危険性もあるかもしれません。

しかし、だからと言ってバングラデシュから撤退することが、
果たして正しい解決策なのでしょうか。

バングラデシュにとって縫製産業は、ほかに替え難い基幹産業となっており、
毎年5〜6%の経済成長率を支えてきた産業です。

それにもかかわらず、この段階で欧米勢が撤退すれば、
バングラデシュの国家の衰退につながりかねません。

「バングラデシュでは違法労働がはびこっている。
地元の工場経営者にはコンプライアンス意識がない。
だから我々はこの国から撤退する」。

そう判断するのは簡単かもしれませんが、
欧米勢がこれまで散々アピールしてきたように、
彼らが本当にバングラデシュを搾取しておらず、
産業を育成し、経済発展や地域貢献に尽くす思いがあるならば、
打つべき手は別にあるのではないでしょうか。

必要なのは、バングラデシュとの取引を続け、
そのうえで工員の労働環境改善に取り組むことではないでしょうか。

労働環境の改善を進めれば、今まで享受してきた安さは
実現できなくなるかもしれません。

しかし、地道にコンプライアンス意識を根付かせ、
産業を発展させることからしか、
「最貧国を搾取している」という批判はかわせないのではないでしょうか。

今回のビル崩落事故を受け、どの企業がバングラデシュから去り、
どの企業が残るのか。企業の姿勢が試されているようです。