ここまで簡単!英単語スピーキング

今日のポイント

・最も簡単な英会話は必須語(これだけはないと意味が通じない最低限の単語)を並べるだけの単語スピーキングだ。これは世界標準の英語だし、ビジネスでも有効だ。

 

今日は、いよいよ最初のレッスンです。あまりにやさしいので、「これではプライドが許さない」と思われそうなほどです。しかし、これは世界標準の英語です。大事なことは、これがすぐに口をついて出てくるかどうかです。

 

この英語がすぐに出てきますか?

 

問題:以下の日本語を見て、すぐに英語になるかどうか試してみてください。

 

「駅に行く道を教えて下さい」

 もし、ここで「どう言うのだっけ?」と一瞬でも考えてしまった方にとって、今日のレッスンは十分学ぶ価値があります。

 

 ぼくが思いつくままに書いてみます。

 May I ask you how to go to the station?

 Can you let me know how I can get to the station?

 Could you tell me the way to the station?

 Excuse me, where is the station?

 

 まず大事なことは、英作文の試験を受けているのではないのですから、日本語と英語の意味がだいたい同じになれば十分だということです。

 

駅   → the station

行く道 → the road to

教えて → teach

ください→ Please

 

 のように考えて、

 Please teach the road to the station.

 としなくてもいいんです。

 

というよりも、この英語は通じますが、正しくはありません。

今日ぼくが紹介する「正解」英語の方がもっと簡単で、よく通じます。

 

なぜ正しくないセンテンスができてしまったかというと、日本語と英語の単語を1:1に置き換えているからです。これは最もやってはいけないアプローチです。

ぼくがこの連載で示す方法論に従っていけば、「日本語から英語をつくり出す」という従来のやり方を徐々にしないようになってきます。

 

英語を学び始めたばかりの人が注意すべき簡単なルールがあります。

それは、「必須語を探せ」というものです。

 

日本文でも英文でも文の中には必須の単語とそれ以外の、言わば、飾りの単語があります。ぼくが書いた上の4つの英文をよく見てください。すべての文に共通の単語は一つしかありません。それはStationです。それ以外は、「どこですか」に当たる部分が異なる表現で出てきます。

 

つまり、

 必須語: 駅 どこ

 となります。それ以外は飾りです。

 

だから、もし外国で道を聞くはめになったら、

 “Station Where”

 でいいわけです。

 

これがぼくの薦める英単語スピーキングです。

道に迷ったときに最初に頭に思い浮かぶ単語は行き先(この場合は駅)でしょう。思い浮かんだことをさっと言うのです。

 

デパートやお店の中だったら、「トイレはどこですか?」と聞く際に”Restrooms?”だけ言えれば完璧です。もちろん相手への礼儀として、”Excuse me.”くらいは添えた方がいいですが、思いつかなかったら、なくてもかまいません。

 

ぼくがパリを旅したときはこれで乗り切りました。ぼくはフランス語は「こんにちは」と「ありがとう」しか知りません。数も1と2しか数えることができません。あるとき、道に迷い、シャゼリゼ通りがどの方角にあるか全く分からなくなってしまいました。四つ辻にお巡りさんが立っていたので、にこにこしながら近づきました。

 「ボンジュール。シャンゼリーゼ」

 と言って、ぼくは四つ辻のそれぞれの方向を順番に指さしました。つまり、シャンゼリーゼ通りの方向がどちらなのかを指さしてほしいと示したわけです。お巡りさんはにこにこしながら、左の方角を指差しました。ぼくは「メルシー」と言いました。お巡りさんもうれしそうでした。

ぼくの意図したところは100%通じたし、お巡りさんも「今日は道に迷った外人旅行者を助けた」と思ったことでしょう。これは完璧に意思疎通ができた例です。

 

ただし、自分の行き先だけは誰も察してくれません。例えば、展望台に行きたい場合、展望台を英語でどう言うのか分からないと人は、場所を聞くことができません。必須語だけは英語で言えないと困る、ということです。しかし、それさえ言えればコミュニケ―ションは成立します。

 

「これはブロークン英語だ。これには抵抗があるなあ」と思う方がいるかもしれません。

「ブロークン」という言い方をしてしまうと響きが悪いのは確かです。しかし、そう考える方は外聞を気にしすぎているからではないのでしょうか。読者のみなさんは、カタコト日本語の外国人に道を尋ねられた経験がおありでしょう。そのとき、「あの外国人の日本語はブロークンだった」と思うでしょうか。それより、「なんとか無事に目的地に着いてほしい」と思ったのではないでしょうか。

 

ここで紹介している英語は流暢(りゅうちょう)とはかけ離れた代物ですが、重要なことは、世界標準の英語だということです。

 

 米国、英国、カナダ、オーストリアなどの英語を母国語とする人口が4億人前後、英語を第2外国語として話す人が15億人前後いると言われています。後者の人たちの英語力の大多数はそんなものです。

 ぼくが住んでいたアラブ首長国連邦のアブダビ市にはバスや電車はありませんから、公共交通機関はタクシーだけです。タクシーのドライバーはみなパキスタン人で、客によってアラビア語と英語を使い分けてくれます。ただ、猛スピードで走る車を操るドライバーに対し、素早く正確に伝えなければ目的地にたどり着けません。

 

 「次の信号を右に曲がってください」

  は常套句でした。これはどう言うのでしょう?

 

 これは必須語を挙げてみれば簡単です。

  信号と右が必須です。

 

 したがって英語は

 “Signal Right”

  となります。

 

 なお、ここで「次の信号」の「次」を訳すつもりで、nextを言うと大変なことになってしまいます。目の前にある信号のその次の信号のことかと誤解するからです。

 

この英語はアラビアでは「正式」な英語でした。一緒に乗った友人のイギリス人も運転手にそう指示していました。ぼくはからかって

 

「お前のその英語、どうなっているの? 君はイギリス人だったっけ?」  と揶揄(やゆ)しました。

「これが、いちばん通じるんだよ」と、彼は言っていました。正統な英語をしゃべっても相手が理解できなければ意味がないのです。

 

それでも、何もここまでレベルを落とさなくてもいいんじゃないか。 Station WhereとかSignal rightではあまりに幼稚だ」

 と思う方がいらっしゃるかもしれません。

 

 前回申し上げたように、「駅に行く道を教えてください」を作文している間に、ぎこちない間が生じてしまうのが最も避けるべきことです。Station Whereは頭からすぐに出てくるでしょうから、「まず言っちゃえ」とぼくはアドバイスしているわけです。その方がずっと“会話らしい”会話になります。このレベルができたら、次の段階に進むことを考えればいいのではないでしょうか。

 

 ぼくが必須語スピーキングを勧める理由は、自分の失敗にあります。

 

 留学生だったころ、ぼくはコピーを取りたくて、コピー屋に入りました。自分の書いた論文のコピーを取っておきたかったからです。

Can you make one copy for each? (各ページを1枚ずつコピーしてください)

 

このようにすらすら英語が出てくればよかったのですが、ぼくは途中で言い淀んでしまいました。Forまで言ったときに、「あれ、この英語でよかったかな?」という不安が頭の中をよぎったのです。

 

店員はOKと言って奥に消えて行きました。

戻ってきた手には分厚いコピーを抱えていました。

Forで言葉を止めたばかりに、そこが強調され、4部コピーを取ってきたのです。

論文は20ページ。コピーは80ページ、合計100ページを抱えるようにして店を出ました。店を出る際に別の客の声が聞こえました。

 

“Two, please.”

アメリカ人の英語を聞いて、コピーを頼むときは数字だけ言えばいいということが分かったのです。この場合、必須語はコピー枚数だけです。

 

 「日常会話はこの程度でも良いだろうが、正式な場面では役に立たないんじゃないか」と思う方もいるでしょう。もちろん晩さん会のような席では無理です。でも一般のビジネスでもこの程度の言葉の使い方で問題はありません。

 

ぼくは株式投資を仕事とするファンドマネージャですから、部下たちと日本の経済ニュースを日々共有し、それについて話し合ってきました。

 

「今日はいいニュースがあったよ。失業率が0.3%前月から下がったんだ」

これは、よくある部内での会話です。これを英語で言うとどうなるでしょうか。ぼくが実際に使っている表現そのままをここで書きます。

 

“Good news. Unemployment rate Down 0.3%”

 

 この中で必須単語は3語。「失業率」と「0.3%」と「下がった」だけです。プロ同士の間では0.3%が前月からの変化率を指すことはみな知っていますから訳出不要です。

 ていねいな人ならば、日本語と同じようにちゃんとした文で話すかもしれません。そういう人でも、もし「聞こえなかった。もう一度言ってよ」と言われたら、

 

“Unemployment Down 0.3”

 といった大事な個所だけを繰り返すでしょう。その際はrateも%もなくなっています。

 

 通訳をする場合も一言一句正確に訳す必要はありません。ぼくがあるプレゼンテーションの通訳を頼まれたとします。話し手が「みなさん、これから3つの大事なことをお話しします」と言い、それを訳すことになったとします。

 

 ぼくが訳せば、

 “Three things.”

  だけです。

 

 上の日本文で必須語は「3つ」だけです。このセンテンスを語感を大切にして日本語に戻すと、「ポイントは3つ」くらいになるでしょう。聞き手にはそう聞こえています。

 

 聞き手の外国人は「3つのポイントは具体的には何か」に興味があるのであって、早く次が聞きたいのです。そうでなくても、話し手が日本語をしゃべっているときは呪文を聞いているようで退屈な時間です。だからここはさっと訳すのが最高です。

 

 どうして単語を並べただけでもビジネス上問題がないのか。有難いことに、それが英語の特性だからです。例えば、ビートルズの大ヒット曲は”Yesterday”。日本だったら「昨日」というタイトルでは売れないでしょう。これではあまりにそっけない感じです。同じような例に、ミュージカル「アニー」の代表曲 ”Tomorrow”があります。邦訳すれば、ただの「明日」で味気ない。「明日があるさ」になりそうです。

 

 米国で銀行やスーパーのレジの列に並んだことのある人は、大声で”Next!”と呼ばれた経験があるでしょう。これを「次!」と訳すと高飛車な姿勢に腹が立ちます。しかし、米国人には「お次の方」くらいに聞こえているはずです。英語では、単語だけでもそれ以上の意味を語っているように聞こえるのです。

 

 英単語スピーキングの良いところはすぐに英語が出てくることです。会話の流れを大切にできるところです。さらに、これができるようになれば、次の段階(単語だけでなく文が口から出てくる段階)につながっていくのです。つまり「点」の英語から「線」の英語へ成長していく準備段階でもあるのです。

 

 この英単語スピーキングが難しいと感じる方は、読者のみなさんの中には居ないでしょう。問題は、この英語でプライドが許すかどうかです。そこを超えれば、一歩踏み出したことになります。