【林則行氏のコラムより】英語、本音の上達法!Vol.7
最速の上達を約束する「ひらめき英語法」
今日のポイント
・ぼーっとした時間に心に思い浮かんだことをすぐに口にする。この繰り返しが最速の上達をもたらす。
第2回の「「読む」「聞く」「話す」「書く」、あなたならどれを最初に勉強する?」でスピーキングから英語を学び始めるのが最も効果的だと申し上げました。話すことは、自分の知っている単語で、自分が話せる速度で練習できるので、最も障害が少ない方法なのです。
これから紹介する学習法は「ひらめき英語法」(Daydreaming English)と名づけました。簡単に言うと、心の中のひらめきをそのまま英語にしていく方法です。
第5回で紹介した「英単語スピーキング」は、目の前に居るネイティブスピーカーを相手に、現状の英語力でなんとかその場をしのぐのが狙いでした。
このひらめき法は語学力向上を目指したものです。芝居に例えるなら前者が本番、後者は稽古です。稽古が多いほど本番がうまくできます。本番でのスピーキングが単語の羅列から文になってきます。早速その方法をご説明しましょう。
最も効果的な勉強の時間はぼーっとしているときです。電車の中とか家の中で、だらーっとしているときです。そんなとき、何か心に浮かんでくるはずです。
ぼくの場合だったら、
「お腹がすいたなあ」
「今日は10時から会議だ。退屈だなあ」
「内緒でお菓子でも食べてようか」 といったことが思い浮かんできます。
この心のひらめきをその場で英語にしていきます。
「おなかがすいた」は、 I am hungry.
でもいいし、hungry が思いつかなければ I want to eat. でもいいです。
英単語スピーキングを生かして、ただの Hungry! でもかまいません。
次の「今日は会議が10時からだ」は、英単語スピーキングによる
Meeting, 10 o’clock でもいいし、
もう少し形を整えて、 I have got a meeting at 10.
The meeting starts at 10 today. などでもいいでしょう。頭からぽっと出てくる英語でOKです。
退屈だなあ」は Boring ですが、
この単語がすぐに出てこなかった方が居ると思います。この際にいちばん大事なことは「退屈」を使わないで、同じ気持ちを表現することです。
「退屈」=「好きでない」=「嫌い」 というわけですから、
I do not like it. I hate it. などで代用できます。要するに楽しくない気持ちが出ればそれで十分です。
思いついたことをすぐに英語にしてみるのが大事なポイントです。
ひらめきがどうしても英語にならない場合もあるでしょう。その対策については後日お話しします。
「ひらめき」法は中学英語の復習です。
われわれは中学校で必要な英語の文型をほぼ学習しています。日常会話に必要な単語もだいたい習っているでしょう。英語を話すとは、その無限の組み合わせから一つを選ぶ作業です。
例えば、ぼくが中学1年でごく最初に習ったセンテンスは
This is a pen.
I have a book. でした。
でも、現実には「これはペンです」というセンテンスをぼくは生涯で一度もしゃべったことはありません。「本を1冊持っています」も同様にありません。
ただし、これらの文型を利用して、penや bookの代わりに別の単語を入れ替えれば、
This is my wife, Hanako. こちらは妻の花子です。
He has money. 彼は金持ちだ。
となります。これらの英文は何度も言ったことがあります。
既に頭の中にある文型に、既に頭の中にある単語を入れたら、それで自分の言いたいことが英語が言えるはずです。今それがすぐに口から出て来ないのは練習量が足りないからです。ひらめき法で練習をすれば、話せるようになるわけです。
最初はどうしても頭の中で翻訳作文してしまいます。作文に時間がかかり、話の間が恐ろしく長くなります。それでも仕方がないでしょう。でも繰り返していると、その時間は短くなり、そのうちには日本語を通さずに英語で考えるようになるのです。
「英語で考える」ことができるカラクリ
ここで疑問が出てくるかもしれません。
「反復練習で口から早く出てくるようになるのは分かる。でも、間が短くなったからといって、英語で考えるようになるとはどうしても思えない。」といったものです。
ぎこちない間が短くなるのはスピードの改善ですが、英語で考えるようになるのは質的な変化だというものです。われわれは努力すれば、だんだん速く走れるようになりますが、それでもチーターにはなれない、といった理屈です。
これについては前回の第6回「『日本語で考えてはいけない』を科学する」で触れました。
ある思いを言葉にしようとした場合に、現状では語彙も文型も豊富な日本語を選択しています。日本語脳を選ぶわけです。これに対して、今は眠っているままになっている英語の文型や語彙が頭の中で活気づいてくれば、英語脳が育ち、それを選択するのが楽になります。これが英語で考えるということです。
この練習はぼーっとした時間に行うのが良いと言いました。それには2つの理由があります。
第1の理由はこうした時間に心に浮かぶ思いは「短い」ということです。
先程の例の「心に浮かんだ風景」は3つのコメントから成っていました。
「お腹がすいたなあ」
「今日は10時から会議だ。退屈だなあ」
「内緒でお菓子でも食べてようか」
でした。
これを1つにまとめると、
「おなかがすいたから、10時からの退屈な会議の最中に内緒で何か食べていよう」 という文になります。
文にすれば確かにこうなりますが、こうした複雑な思いはぼーっとした時間には浮かんできません。上のように、途切れ途切れの思いが次々に浮かんでくるはずです。これなら非常に短く単純なので、育ち始めたばかりの英語脳でも簡単に対処できます。長い考えを英語にしようとすると、どうしても日本語から翻訳してしまうのです。
自分の奥にある感情を英語にすることはとても重要です。「退屈だなあ」と思ったら、その素直な感情を表わそうとして、自分の気持ちにぴったりくる英語を選ぼうとします。その結果、日本語ほど上手でなくても、英語でも自然な感じが伝わります。
「使える英語の語彙数が少ないから、どの表現がより自然なのかなんて分からない」とおっしゃるかたがいるでしょうが、銅メダルを目指しているうちは考えすぎないでください。数をこなしているうちに、自然にできるようになってきます。
第2の利点はぼーっとしたときに思い浮かぶことは範囲が限られているということです。
話題で言えば、家族、友人、同僚のこと、身体の調子、1日の予定。形容詞で言えば、楽しい、つらい、嫌だ、といった感情の範囲に収まってしまいます。これに対して、哲学、科学技術、文学といったことに思いが及ぶことはごくまれでしょう。ぼくはこのことに気づいたとき、「自分の関心事ってなんと範囲が狭いんだろう」と苦笑しました。
ひらめき法の長所は意外と長い時間、英語に浸ることができる点にあります。
英語をうまくなろうと思ったら、できるだけ長い時間、英語に浸ることです。もしこれから一生、全く日本語は使わないで、英語だけで暮らそうと心に決めたかたが居るなら、その人はかなり英語がうまくなるでしょう。
逆に効果が薄いのは、英語を学んでいるつもりでも、本当は日本語を見ているような場合です。英語の教材テキストは、例題の英文以外はだいたい日本語でできています。なので、テキストを見ている間、日本語で考えている時間がけっこうあります。英語教室も先生が日本語で説明している場合は、日本語脳が働く時間が長くなってしまいます。
これに対して、このひらめき英語をやっているときは、すべて英語の時間です。
「さあ、英語脳の時間だ。日本語脳は使わないぞ」と思って始めてみてください。最初のうちは、「日本語で考えてはいけない」と思うあまり、緊張して何も考えが浮かんでこないこともあります。それでは元も子もないので、適当に気持ちを緩めて行うのがいいでしょう。
「この方法をどの程度の期間続ければ、英語がすらすら出てくるようになるでしょうか」という質問を受けます。これは、それを始める人の現在の英語力によって違いますが、英検2級だったぼくは半年でだいたい思ったことがなんとか言葉になるようになりました。ぼくはこの半年は通勤する間(電車往復で20分)だけ、このひらめき法をやっていました。
「1日20分だけ、半年でそんなにできるの?」と疑問に思うかもしれませんが、本当です。ただし、上記で述べたようにごく限られた話題の短い文だけです。
ぼくはこの方法を誰に教わるというわけでもなく、ぼーっとしているくらいなら、英語を勉強したほうがいいという単純な動機で始めたのです。この方法だと自分のペースで少しずつ進むので、高いハードルを感じないで済みます。そのうち、「あっ、これも言えた」と喜びがわいてきます。今まで言えなかったことが英語で言えるようになると、真白な便箋に英語のメッセージを綴ったような感覚が生まれます。
ひらめき法を始めて半年後、自分も頑張れば英語ができるようになるぞという希望が出てきました。ここまで来たら、銅メダルの入口に立ったと言えます。皆さんも半年後には同じような気持ちになるでしょう。
ひらめき法を行うにあたっては文型や単語にノウハウがあります。それは次週以降順次お話しいたします。