【林則行氏のコラムより】英語、本音の上達法!Vol.11
和英辞典は最良のお助けツール
今日のポイント
・実践型ひらめき法: 家の中や街を歩きながら、また電車の車内であたりを見回しながらあれこれ英語で考えてみる。
適切な言い回しが分からないときは積極的に和英辞典を引く。
今日は和英辞典を活用した「ひらめき」法の実践版を紹介します。これが身につけば、留学を乗り切れるほどの力が付きます。この方法は、英語の成績が最下位で留学したぼくが、そこそこの力をつける原動力になりました。
ぼくが大学院に留学した際、一緒に入った日本人15人の中で最も英語が不得意でした。ぼくだけが、かなりたどたどしかったのです。「日本人で最低ということは、ぼくの英語力はコロンビア大学MBAコースで最低ということだろう」と思いました。
しかし、そう思っているのと、それが事実だと目の前に突きつけられるのとでは、ショックの度合いが違います。ぼくはこれまで学校でビリだったことはなかったからです。
入学後仲良くなった大学院事務局の人が、ぼくを含めた留学生数人の学生の前でこう言ったのです。
「うちの学校は度量が大きいんだ。将来性があると思ったら、英語が少しくらい下手でも入学させちゃう。今年のTOEFL英語の最低点は○○点だった」
その点数は大学が公表している必要最低限の点数よりかなり低かったので、同席した留学生たちは驚いているようでした。でも、いちばん驚いたのはぼくでした。まさにぼくの点数だったからです。
ぼくが前途ある若者と見られたのには訳があります。ぼくは英語の点数が低いので、普通なら入学は無理でした。だから、願書に書く志望動機や自己アピールの内容で人に差を付けるしかありません。
ウオール街まで至近距離にあるコロンビア大MBAは投資の実践的な教育が売りでした。そこで「ぼくを入学させれば、米国人にはなかなか分からない日本株の極意を同級生たちに教えてあげよう」と大言壮語を書きました。当時は日本株全盛の時代で、世界の注目が集まっていました。
翻訳業者に依頼して立派な訳文を送ったら、合格したのです。他校にも出願しましたが、当然すべて不合格でした。
そのぼくが卒業時点では日本人留学生の中で上位の英語力になっていました。どこで追い上げたのでしょうか。
同じ教材を勉強したのですから、その点では大きな差はなかったと思います。ぼくだけがアメリカ人と積極的に付き合って英語を磨いたということもありませんでした。ぼくは会話が通じないので、どちらかというと、付き合いを避けていた方でした。「せっかく外国に住んだのだから、こういうことではいけない」と思いながらも、アメリカ人から「あいつは話が分かっていない」と見破られるのが怖かったのです。
違いといえば、日本にいたころから続けていた「ひらめき」英語法(「最速の上達を約束する『ひらめき』英語法」を参照)でした。ぼくはその方法を進化させていました。それが今日ご紹介する実践型です。
実践型の第1ステップ:ひらめきの幅を広げる
実践型ひらめき法には2つのステップがあります。
ひらめき法の基本型は「ぼーとした時間に自分の心に浮かんだことを口にする」ものでした。
実践型の第1ステップでは、家の中や街を歩きながら、また電車の車内で辺りを見回しながらあれこれ考えてみます。
例えば、電車の中には週刊誌の中吊り広告が下がっています。
そこには、
特集「あの人は今」:往年のスター○○○○が心情を激白
などといった文言があります。
この時、往年のスターの写真を見て、「懐かしいなあ」と思ったとしましょう。この気持ちを英語にするのです。ぼーっとしているとき、自分の世界にこもっているときには、「懐かしい」という気持ちはあまり起きないでしょう。周りを見回したときのほうが話題や感情の幅が広がります。つまり、この実践型第1ステップは周囲に目を向け、視野を広げることで、単語や表現を広げるのが狙いです。
ただし、中吊り広告そのものを英訳するのではありません。それは日本語の英訳であり、日本語脳を使うことになってしまうからです。上記の「激白」はなかなか英訳ができないでしょう。
また、「あの人は今」は「あんなに一世を風靡した人は今どうしているか」の意味ですが、それを逐語訳してしまっては味がありません。一般に広告は人目を引くためにつくられていますから、訳出は特に難しいと思ってください。
「懐かしい」という気持ちをどう英語で表わしたらいいでしょうか。いちばん先に頭に浮かぶのは「ノスタルジア」ですが、一般的に言ってカタカナ外来語をそのまま英語にすると失敗します。アルバイトやコンセントが英語ではないように、使用前に注意が必要です。ノスタルジアは英語ですが、ちょっと重すぎます。亡くなって久しい父母を想うような場合です。
「懐かしい」という言葉にとらわれてはいけません。感情を英語にするのです。
懐かしい⇒なぜ⇒最近見かけていないから、ということですから、
I have not seen her for a long time. でかまいません。
第2ステップ: 和英辞典を活用する
第1ステップがある程度できるようになったら、第2ステップに移ります。
第2ステップは英和辞典を積極的に活用する段階です。第1ステップを続けていると、どうしても英語が出てこない場面に出会います。「『懐かしい』って、どう言ったらいいんだろう。どうしても、分からない」と思ったら、かまわず辞書を見てください。
「和英を使うということは日本語を見ることだ。たった今、『中吊り広告そのものの英訳は日本語脳を使うからだめだ』って言ったばっかりじゃないか」と思われるでしょう。
その通りです。より大事なのは英語で考える第1ステップです。第1ステップでは自分の知っている単語の中で何とか英語にしています。しかし、それだけでは限界が来ます。英語の語彙が少ないからです。
ぼくの経験では、「これは英語でどう言うんだろう?」と思ったときは疑問のままにしておかない方がいいようです。和英辞典を引いてしまうと日本語脳を使うことになるのは確かですが、こういう疑問が起きた時点で日本語脳はもう動いてしまっています。だとしたら、「知りたい気持ち」があるときが学び時です。
「懐かしい」を早速引いてみましょう。上記の言い方以外にmiss(会えないで寂しい)を用いる言い方があるのが分かります。
例えば、
「故郷の街が懐かしいなあ。帰りたいなあ」 といった場合です。
この場合は
I miss my hometown.
となります。往年のスターの写真を見かけた際に、このmiss を用いるなら、過去形(または現在完了)になります。すでに、スターの写真を既に見たので、寂しい気持ちは今では落ち着いたことになるからです。
こうやって、和英辞書を引くことで表現を覚えることができます。
英単語教本はつまらないからやらない
これに対して、記憶に残りにくいのは単語帳や英単語教本で英単語を集中的に暗記することです。
例えば、英単語教本では英単語が
投資 investment
資産 assets
負債 liabilities のように並んでいます。
それぞれを見るのに1秒もあれば十分ですが、1秒後には次の単語に目が移っています。速く進みすぎて頭に残らないのです。やってみれば分かるのですが、どんどんページが進む割にむなしさが残ります。さらに甲斐のないことに、「この単語を今覚えなければならない理由がない」のです。
「どう言うんだろう?」と思って引いた単語は頭に残りますが、今、特に興味のないテーマの単語は記憶に留まりません。ぼくは仕事柄、経済ニュースは聞き逃しませんが、殺人事件になると聞いても頭に残りません。興味があるかないかによって記憶の定着度が大きく違うのです。
英単語教本が覚えにくい真の理由は「単語のスペルには意味がない」からです。
dog=犬
ですが、どうしてこのDとOとGの3つのアルファベットがつながると、ワンワンと吠えるしっぽのある動物を指すのか、意味が特にあるわけではありません。
スペルを逆にすると、godとなり神の意味ですが、犬と神は近いから同じ3文字が用いられているということでもありません。ぼくには英語のスペルは記号のように見えます。電話番号を片っ端から暗記するのとそれほど違いがない気がします。
英単語教本をめくっていると、つまらないので英語が嫌いになってしまいます。嫌いにならずに語彙数を増やすには、「これは英語でどう言うんだろう」と思った時点でその都度辞書を引くことです。
外出先で辞書を引くなら、携帯電話や電子辞書、ネット辞書が便利です。電子辞書は和英辞書で見つけた英単語をクリックすると即座に英和辞書にジャンプする機能があります。今度はmissを英和辞典で調べてみると、「会えないのが寂しい」以外に「機会を逸する」という意味がみつかります。
Don’t miss the boat.
という慣用表現が出ています。日本語では「バスに乗り遅れるな」と言いますが、英語では「ボートに乗り遅れるな」と言うことが分かります。
インターネットで調べたいことを検索しているうちに、関連事情をあれこれ調べてしまうことがあるでしょう。同じように、いったん辞書を引き始めたら、あれもこれも見たくなることがあります。これは単語を覚える良い機会です。
ネット上では無料で利用できる辞書がたくさんあります。その中で用例が多くて参考になるのはアルク社の英辞郎です。アルク社のホームページからアクセスできます。普通の辞書は「懐かしい」」はあっても「懐かしの」までは用語登録されていません。英辞郎は「懐かしの」でも引くことができます。
収録されている用例が多いのは良いことなのですが、初心者のかたは「これって、全部覚えなくてはならないんだろうか?」という気持ちになるかもしれません。もちろんそんな必要はありません。
この第1および第2ステップの時間を長く取れば取るほど英語の上達が速くなります。
ぼくは留学の最初の半年は、日本語の本は読まない、メモは英語で取るなどと徹底するようにしました。大学の図書館に日本語新聞が置いてあるのを初めて発見したときには漢字、ひらがなが目に染み入るように入って来たのを覚えています。枯れた土地に水をまくと、待ってましたとばかりに土が水を吸い込んでいく。そんな表現がぴったり当てはまるような感覚でした。
「留学したらそこまで徹底できるかもしれないけど、日本に居たらそれは無理だよ」とおっしゃるかもしれません。ぼくが言いたいのは、留学時代に英語が上達したのは、大学や米国という環境のせいではなくて、この「実践型ひらめき法」が主な理由だったということです。MBAに留学しても一度もアメリカ人と話さないで卒業したという事例もあるくらいです。「留学=英語ペラペラ」という図式は成り立ちません。
見たものや聞いたものをすべて英語にしていたら、忙しくてかないません。気が向いたときだけ「ひらめき」法を行い、疑問に思ったときだけ和英辞典を開けばいいのです。ぼくは今でもこの第2ステップを続けています。ぼくは日本語のテレビや新聞、雑誌を見るときは、頭のどこかでいつも「知らない単語や表現はなかったかな?」というセンサーを働かせています。知らない単語に出くわすとすぐに和英辞典で引くことにしています。だから、辞書はテレビの横にいつも置いてあります。
自分が興味を持てる話題や内容を中心に、言いたいことを英語にしてみてください。皆さんも努力次第で、銅メダルの上位にまで到達することができます。