英米人は日本人より本音を言わない

 

今日のポイント

・英米人は日本人に比べ本音を言わない。良いことしか言わない傾向がある。

・形容詞はgoodだけ知っていれば当面は十分だ。これだけでいろいろな意味を表現できる。goodを駆使して英米人のように誉め上手になろう。

 

英米人は誉め言葉の中に微妙に本音をにじませて伝えます。この方法を体得することは彼らと対等にやり合うのに不可欠です。しかし、最初はなかなかできません。第1ステップとして、英米人流の誉め方を学びましょう。これはgoodさえ使えれば、誰でもすぐにできるようになります。

 

 日本人は本音を言わない、英米人は単刀直入に話す、と言われています。この指摘は外国人がしたものです。日本人がこう思うはずはありません。こちらは外国人が話すちんぷんかんぷんな英語を聞かされるわけですから、「ああ、外人って単刀直入だなあ」と思うことはないからです。

 

この「日本人は本音を言わない、英米人は単刀直入に話す」という指摘は正しいでしょうか。われわれは検証することもなく、この指摘を真に受けていないでしょうか。ぼくの経験では真実はこの逆です。日本人は本音をよく言います。

 

例えば、顔馴染みの寿司屋に入って、「久しぶり。元気でした?」と聞くと、店主は「元気。元気。元気でしたよ」。と必ず言います。寿司屋は威勢がよくないと務まりません。これは営業文句であり、もちろん本音ではありません。

 ところが、カウンターに座って少し話すと、店主は「実は、先月入院するはめになってさ」。と本音を話し始めます。店には常連とは言えない他の客も居るので、この本音は公開情報になってしまうわけです。

 これに対して、英米人はかなり親しい間でも自分の胸の内を打ち明けることがないようです。

 

 私がかつて勤めていた会社のアメリカ人同僚から、「転職したいのだけど、ヘッドハンターを紹介してくれないか」と尋ねられたことがありました。米国で働いていたときのことです。ぼくは自分の知っているヘッドハンターを紹介する前に、 「このヘッドハンターは日本人や日本企業向けが強いんだ。君はアメリカ人だから役に立つかなあ?」

と言いました。すると、同僚は、「ノリ(ぼくのこと)は信頼できるからこういう話をするけど、誰にでもできる話じゃないから」と言ったのです。

つまり、他のアメリカ人同僚には話しにくいということでした。転職話を打ち明けてきたアメリカ人同僚とぼくはそれほど親しいという間柄ではありませんでした。彼は日本人同士が親密につきあっているようすを感じとっていて、日本人のぼくになら秘密を打ち明け、相談できるのではと考えたのだと思います。

 

事実、海外に住む日本人は「お互いに助け合おう」という気持ちが底流にあって、誰とでもすぐに打ち解ける傾向があります。また、海外旅行をする日本人は詐欺のカモになりやすいと言われるのも、相手を信頼しやすいからです。腹の探り合いをするのは日本人よりも欧米人の方です。

 

 会社で働いている人ならば、上司が部下を呼んで仕事の評価をする機会が年に1~2回あります。そんなとき英米人の上司は良いことしか言いません。「がんばってるね。私だけでなく周りのみなが評価しているよ」といった具合です。

 ただ、途中でちょっとだけ本音を出します。営業成績が低迷している人には、「今年の営業成績だけど、もう少しいけたはずだよね」と軽く言います。そして、その後にすぐ、「これがあなたの本来の力でないことは知っている。景気が悪かったのが最大の要因だよ」とフォローを忘れません。

 

このように言われたらアメリカ人の部下は「上司からまずまずの評価を受けた」とは受け止めません。本音を見せない風土に慣れている人たちは「相当厳しいことを言われた」と思うはずです。

 

同じように、職場に問題児が居た場合、日本ならば「あいつには困っちゃうよ」とあからさまに言うことがあるでしょう。欧米ではあり得ません。微妙な言い回しでその人への不満を伝えるのです。顧客とのトラブルが絶えない社員については、そのことに触れないで、「彼に資料づくりを任せたら天下一品なんだ。顧客係じゃもったいないよ」といった具合です。つまり、顧客係としては、だめだという意味です。

遅刻常習犯の部下には、「朝寝坊は君の欠点だね」と言う代わりに、「早起きは君の最高の強みではないよね」と言います。

 

言葉の観点からこれらの話を考えると、出てくる単語はすべて褒め言葉です。「素晴らしい」「うまい」「秀逸だ」「努力家」「まずまずの出来」「健闘している」といった具合です。この中から微妙な差を感じとって相手の本音を測るのが英米文化です。

 

この差はかなり敏感なセンサーを持ち合わせていないと分からないでしょう。読者のみなさんにも最終的にはこのテクニックを身につけていただきたいと思います。ただし、そのためには基礎から学ぶ必要があります。まずは世界標準の英語を覗いてみましょう。

 

世界標準の英語は微妙さのない白と黒の世界。中間的なくすんだ色合いのない世界です。

テレビドラマの世界では必ずいい者と悪者が居るように、何かを形容する言葉は大きく分けると、goodとbadに分けられます。綺麗だ、速い、安い、誠実だ、おいしい、などはどれもgoodの仲間であり、その反対がbadの仲間になります。

 

 世界標準の英語は、ほとんどこのgoodとbadで済ませています。

 

ぼくはアラビアに住んでいたとき、アラビア料理をよく食べに出かけました。あるとき、自分がいつも食べている料理の味が少し違いました。そこで、給仕をしているなじみのレバノン人に、

 「いつもと味が違いますね。」  と英語で言いました。

すると、 「違うとはどう違うんだ?」  と聞くのです。

今日はシェフが休暇中で、代わりの人がつくっているとのことです。

 彼は加えて、

 “Good or bad?”   と言いました。つまり、いつもよりうまいのか、いつもよりまずいのかをどうしても聞きたいのです。

日本人の読者のみなさんなら、ぼくの言いたいことはもう分かっているでしょう。いつもより良いなら、「今日はいつもより良いよ」と言い切っているはずです。つまり、ぼくはいつもより劣ると言いたかったわけです。

 

「違う」と言っただけでは、そのニュアンスは伝わらなかったようです。しかし、いくらなんでもレストランに来て、「まずい。(bad)」と言うのはためらわれました。あまりに失礼な発言だからです。

それでも、給仕の人はぼくの答えを待っています。

「仕方がないや。正直に言っちゃえ。」と思って、

 “Bad.”

 と言いました。すると、彼は「分かった」と安心したように、ぼくのテーブルを離れたのです。「まずいとは何だ」といった気色ばんだ様子は微塵もありませんでした。goodとbadしかない世界の人から考えれば、ぼくの発言は「まずい!」には聞こえなかったのかもしれません。

 

not very good の本当の意味は「かなり悪い」

 

世界標準の英語は確かに、goodとbadの二元論になっています。しかし、みなさんにはbadは薦めません。もう少し上品な英語を話しましょう。みなさんにお薦めする英語表現は

very good

good

not very good

の3種類です。面と向かってbadを使う機会はあまりないと言っていいでしょう。

 

 

ここでnot very good について解説しておきます。これは学校では「very good ではない」ということであり、「すごく良いというほどではない」くらいに教わります。原義はその通りですが、実際に使われる場合は「かなり悪い」です。

 

“How are you?” 「元気にやってる?」 に対してほとんどの場合は

 Very good.

 Good.

 Fine.

 などと答えます。松葉づえをついて、見るからに辛そうに歩いてきた友人でも

 “fine (またはgood ).”   と言うでしょう。

 

つまり、not very good とはなかなか言わないということです。もし、誰かがnot very goodと言った場合は、その後に「会社は首になるし、彼女には振られるし、財布は落とすしさ」といった理由がつきます。この3つのうち、1つくらいしか当てはまらないなら、not very good とは言わないでしょう。

 

ちなみに、この発言には英米人の自虐的なユーモアが含まれています。こんなにひどい状況なんだけど、not very good (すごく良いとは言えない) と言っている自分がおかしいのです。これを聞いている相手の人は発言者のユーモアを感じますが、同時に「相当ひどい状態だ」とも感じるわけです。

 

こう見てくると、われわれが会話で使う形容詞は

 very good

good

くらいに絞られます。not very good は「かなり悪い」ですから、その代わりに「まずまず」(英語ではOK)くらいは使うかもしれません。

 goodをうまく使うだけで、幅広い意味を表わすことができます。

 

例を挙げます。以下の例文でgoodに力を入れて言えば、本気で「良い」という気持ちを言っていることになり、淡々と言えば「まずまず」の意味になります。

 

 

英語が達人級だ。

His English is very very good.

 

調子がいい。

I feel good.

 

サービスは及第点だ。

The airline’s services are good.

 

相手として申し分ない。

He is a good match for me.

 

話し上手だ。

She is a good talker.

 

これは幸先がいい。

This is a good sign.

 

(やめるのに)キリがいい。

 This is a good place to stop.

 

得意客だ。

He is a good customer.

 

勝算がある。

 We have a good chance of winning.

 

政治家はしっかりしろよ。

Politicians are not very good.

(しっかりしろ⇒なぜか⇒政治家はかなり悪いから、という解釈です。)

 

good以外の形容詞が使える人はもちろん使っていただいてかまいません。大事なことは、goodだけでも相当のことが言えるということです。

good を使いこなせば英米人のように誉め上手になれる

 

 「very good」や「good」などを使い分けながら、英米人の微妙な本音の伝え方に慣れていってください。だんだんと感じとれるようになります。外国人の中に混じって働こうと思っているかたには必須のテクニックです。

 

英米人は本音を隠す陰険な人たちだ、と思う方が出てくるでしょう。けれど、正反対の長所があることも事実です。ある人の性格を「騒がしい」と評価するとマイナスのイメージですが、「ほがらか」と評価すればプラスのイメージになるようなものです。

 

 英米人は誉め上手です。ちょっとしたことを言っただけでも、That’s a good idea.(それは名案だ)と言ってくれます。人事評価で良いことを並べてもらえるのは、うれしい側面です。誉めることで相手の力を引き出すことができるのだったら、それは素晴らしいことではないでしょうか。

 

 そのためには、まずgoodがうまく使えるように慣れてください。同じ「good」という表現を使っても、場面に応じて少しずつニュアンスを変えることができます。ここをスタートにすれば、自分の微妙な本音をだんだんと伝えられるようになっていきます。