英米人とのビジネス交渉に勝つ

 

今日のポイント

・英米人はWhyで攻めてくるから、それに3回答えられるように準備する。これができると「仕事ができる人」になれる。

 

国際ビジネスを勝ちぬく交渉術について今日はお話しします。「英語の方が日本語より論理的であるから、常にWhy-Becauseで考えよ」と言われています。ここではもう一歩踏み込んで、3回続けてWhy と聞かれても大丈夫なだけの準備をすることを薦めます。これができれば、あなたはそれだけで優秀なビジネスマンです。

 

1.Whyで攻め立てるのが英米人の強み

 

ある映画で見たシーン。カリフォルニアの大学生の男女が痴話げんかしているところです。

 女:「あなたなんか嫌になった。時間にルーズだし、傲慢だし。別れるわ」

 男:「Why?」

  というものでした。

 

ぼくはこの男の発言にあきれてしまいました。女は既に別れたい理由をはっきり明示しているのです。今さらなぜWhyとその理由を尋ねるのでしょうか。

 

ぼくがこの映画のシーンを紹介した理由は、これが典型的なアメリカ人の交渉の様子を示しているからです。すなわち、「ここではWhyと聞いてくる場面ではないだろう」と思う局面でもWhyが出て来ます。

 

上記の映画ではWhyの回答として、

 女:「あなたとはうまくやっていけないわ」

 と言っていました。これは「別れる」と同じ意味であって、Whyの回答にはなっていません。

 

アメリカ人たちは必要もないときにWhy を使うのですから、回答する相手もBecauseで答え始めたとしても、理由にもならないことを話しているケースが多々あります。

 

こうしたことは男女の間柄だけでなく、職場でも頻繁に見られます。

 「このコンピュータは調子が悪い。隣りのを使ってよ」

 「Why?」  といった調子です。

 

我々日本人は律義ですから、Whyと聞かれれば、「どうしてもその理由を言ってやらないといけない」という気に駆られます。しかし、理由なんか分からないことだってたくさんあります。これ以上、何を理由として答えたらいいのでしょうか。それほどWhyが乱用されているのです。

 

 このことはBecause という単語が頻繁に使われている事実にも現れています。

 

 日常会話ではBecause ときちんと発音しないで’cause とか’cosとか発音することがあります。このように短縮するのは

 I’d (had またはwould)

 He’s (is またはhas)

 といったように、使用する頻度の高い単語だけです。同じ接続詞でもTherefore とかHoweverには省略形はありません。いかにBecauseがよく使われているかが分かります。Why が多用されるからです。

 

2.Whyに対して、どこまで答えを用意するべきか

 

Whyの乱用は決して褒められたことではありませんが、この習慣はビジネスの交渉の席では威力を発揮します。

 

相手側はなりふりかまわずWhyで聞いてくると思ってください。隣りのコンピュータに席を移ってもらう場合のように、くだらないWhyの質問もありますが、「御社の製品はどうして優れているのか」といったように重要なWhyもあります。その中間的なWhyもあります。

 

こちらとしては、想定されるすべてのWhyに回答を用意しておけばいいのですが、それを目指すと「御社のパンフレットはどうして赤い色を使っているのですか?」にまで答えを用意することになります。それは現実的ではありません。

 

ここで重要になってくるのが論理戦を乗り切るルールです。すなわち、大事な問題に対して、Whyを3回繰り返されて突っ込まれても十分な答えを用意しておくことです。「Why3重作戦」です。

 

これを具体的に解説します。今、自社のソフト開発技術を欧米企業に売り込もうとしているとしましょう。

 

自分:「当社の技術を使えば、ソフトの開発コストをライバル企業に比べて格安にできます」

相手:「どうしてですか (Whyその1)」

自分:「例えば会計のソフトなら、他社での開発実績を蓄積しています。それを生かすことで工期を大幅に短縮できるからです」

相手:「過去の蓄積があるとどうして工期が短縮できるのですか (Whyその2)」

自分:「会社の基本的な経理の仕組みはどこでも同じです。基本設計がまるまる再利用できるからです」

相手:「基本設計が同じだと、どうして工期が大幅に短縮できるのですか? 基本以外の部分(詳細設計)は違うから、全体ではあまり工期短縮にはならないのではないでしょうか。(Whyその3)」

といった具合です。

 

このWhyの3番目にちゃんと回答ができれば、だいたいの場合は相手からの攻撃をかわすことができます。英米人はそれでもまだWhy攻撃をしかけてくるでしょう。その際は、「そこは当社のノウハウなんですよ」で済みます。

 

往々にして、日本人はWhy攻撃に早々と答えられないのです。途中で言葉につまると、自信がないような印象を与えてしまいます。Whyその1あたりの質問(どうして格安にできるのか)の回答に、「そこは当社のノウハウなんですよ」と言ってしまったら、「こいつと話しても仕方がない」と馬鹿扱いされるでしょう。これに対してアメリカ人はWhy乱用の文化ですから、どこまでもBecauseの回答を用意しています。

 

しかし、3回かわせば、相手から「合格」だと思ってもらえます。負けないためには、最低3回Whyが繰り返されても大丈夫な対策を立ててください。

 

 

3.3重のWhyに答えられる人は「仕事ができる人」

 

 ぼく自身はファンドマネージャですから、証券会社のアナリストたちから有望な株式銘柄の推薦を受けます。この際、3重のWhyに答えることができた人を優秀なアナリストとして信頼していました。

 

少し前のことですが、ユニクロ(ファーストリテイリング)が伸び始めたときのことです。この会社の株を買わないかと薦めてきたアナリストが2人居ました。最初のアナリストはこう話を展開しました。

 

ぼく:「この会社のどこが良いのですか」

アナリスト:「これから年率30%以上の利益成長が見込めるところです」

ぼく:「どうしてそう思いますか(Whyその1)」

アナリスト:「商品がとにかく安いんです。だからよく売れるんです」

ぼく:「どうして安いんですか (Whyその2)」

アナリスト:「中国で作っているからです」

ぼく:「中国で作るとどうして安いんですか (Whyその3)

アナリスト:「人件費が日本とは全く違いますよ」

 

ぼくは「それはおかしい」と言いました。中国の人件費が安いことがユニクロのコスト低減のコツならば、中国企業そのものが日本にやってきたら、ユニクロはひとたまりもありません。ライバルの日本企業だって中国で生産できるから、同社の強みはすぐに消えていきます。

 

しかし、現実的には中国企業が日本進出を果たしたとか、ライバル企業がユニクロの売り上げに肉薄したというニュースは聞きません。中国の人件費だけではユニクロの強みを語り尽くしていないのです。アナリストはぼくのこうした反論に答えを用意していませんでした。

 

2人目は全く違った論理でした。

 

ユニクロの服はデザインがシンプルで、万人が着られるようにできているところが長所だというのです。これがそのアナリストのWhyその2への回答でした。ファッションを追求する服は「私だけの」という消費者の願いを受け入れるために多品種少生産です。しかし、ユニクロの服は普段着ですから、少品種で大量生産だというのです。

 

大量生産ならば生地も生産コストも安くつきます。中国で作ればなお安い。しかも、売れれば店舗の数を増やせますから、ますます売り上げ増え、大量生産が可能になると言っていました。ここがWhyその3の回答です。

 

つまり、「売れるから安い、安いから売れる」が好循環しているという論理でした。どんな商売でも売れるものを作り出すのは至難の技です。ぼくはこのアナリストからユニクロの株を買うことにしました。

 

上記の例から分かっていただきたいことは、3重のWhyに答えるには深く考え抜かなくてはいけないということです。つまり、3重のWhyに答えることができる人は「仕事ができる人」ということになります。

 

 

4.英語でどう表現するかは後回し。まずは的確な中身を

 

Whyへの回答を用意することは、想定問答集をつくって、そこにたくさんの回答を書いておく、ということではありません。好例は上場企業のIR担当者です。IR担当とは投資家からの質問(Why)に答えるために存在している仕事です。分厚い想定問答集を用意して対応しています。

 

ぼくが通常最初にする質問は「御社は他社に比べて成長スピードが速いですね。どうしてですか?」というものです。投資家なら誰でもするごくありふれた質問で、この回答は想定問答集の最初のページに載っているはずです。

 

ぼくはIR担当者から答えを聞くや否や、「その回答はおかしい」と切り出すことにしています。こうすると、マニュアルにない本音が聞き出せるからです。しかし、論理的に攻められる経験が少ないのでしょう。半分以上の担当者が回答に詰まってしまいます。マニュアルに書かれた中身を自分で十分に把握していないからです。

 

試しに次の問題のWhyに答えてみてください。

 

問:「日本は景気がよくないね。どうして?」(Whyその1)

 答:「人が財布のひもを固く締めているからだよ。」

 問:「どうして締めているの?」(Whyその2)

 答:「賃金は下がるし、いつ首になるかも分かないから不安なんだ。」

 問:「どうして雇用状況がよくないの?」(Whyその3)

 

ここで、「雇用状況がよくないのは景気が悪いからだ。」と言ってしまったら、話は堂々巡りになります。どう答えたらいいでしょう? ぼくは仕事柄、経済に詳しいはずですが、的確な答えが思い浮かびません。

 

そもそも「人が財布のひもを固く締めているからだよ」という最初の回答自体がいかさまです。これは景気が悪いという実態を語っているだけで、不景気の理由を述べているわけではないからです。

 

こうして見てくると、3重のWhyに答えることがいかに大変か、お分かりになったのではないでしょうか。3重のWhyに答えることができれば、読者のみなさんは相当優秀なビジネスマンです。ここが国際化の波の中で勝ち残る重要なポイントなのです。

 

こんなに大変ならば、それを英語で言うのはもっと大変なのではないか。銅メダルくらいではできないのではないか」という質問が読者の皆さんから来るかもしれません。  その回答は後日詳しくお答えします。ただ、3重のWhyへの答えが用意できれば、山を9合目まで登ったのと同じです。後の英語化は最後の1合目程度の努力で済みます。

 

別の言い方をすれば、いくら英語ができても、答えるべき中身がなかったならば、話にならないということです。