【林則行氏のコラムより】英語。本音の上達法!Vol.9
I(私)で話し始めると、洗練された英語になる
今日のポイント
・英語らしい発想の英語を話すカラクリ:必須語を思い浮かべたら、次は「人主語」を思い浮かべる。こうすれば、口から出てくる英語は頭でっかちな日本語に引っ張られることがない。
今日ご紹介するのは、英語学習がある程度進んだ方に最適のアドバイスです。
「英語で考えろ」といっても普通は簡単ではありません。今回はそれを一気に達成してしまう方法です。
これまで紹介した英語で考えるノウハウは「短い英語から始める」ことでした。
しかし、少し長めの思いが浮かんだときに、うまく英語にするにはどうしたらいいでしょうか。
それが今日、紹介するコツです。タイトルにあるように、I(私)から話し始めます。これで、この後に口から出てくるセンテンスの構造が決まってしまいます。
もちろん、相手のことを話すときはYou(あなた)が主語だし、第三者についての話題ならHe(彼)またはShe(彼女)が主語になります。We(私たち)とかThey(彼ら)が主語になることもあります。ぼくが言いたいのは「人を主語にして話し始める」ということです。ただ、「人主語」という言い方は分かりにくいですから、本稿ではI(私)を代表としてお話しします。
別の言い方をすれば、人以外は主語にしないということです。得体の知れないことを指すItという主語も人主語ではありません。
ぼくの経験では7~8割の確率で、人主語でセンテンスを構成することができます。
われわれがまず思い浮かべるのは必須語です。これがないと話題自体がないことになります。その次が人主語です。ここまで来ればほぼ骨格ができたことになります。日本人は「私は」「あなたは」をあまり言わないので、この発想は苦手かもしれません。だから、本稿ではここを強調したいのです。
一見してI (私)とは関係なさそうでもIを主語にできます。
「(私は)会社に行く」とか「(私は)週末は本を読む」といったことなら、主語は明らかですから、迷わずIで話し始めることができます。ここまでは何の問題もありません。厄介なのは一見してI(私)が主語ではなさそうな場合です。
例を挙げてみましょう。
「今日はなんだか頭が痛いなあ。」
という思いが頭に浮かんだとしましょう。
この日本語の主語は「頭」です。日本語からの翻訳ではこうなるでしょう。
Today, somehow, my head hurts.
これでもちろん意味は通じます。
これに対して、日本語を介さないで直接英語に進む方法を取ってみましょう。「頭が痛い」という日本語ではなくて、日本語を忘れて、自分がそうなったときの様子を思い浮かべてください。
Headache
A pain in my head
などが思い浮かんでくるはずです。これが必須語です。この必須語さえ思い浮かべば意思疎通は可能になります。しかし、今回は英語らしい英語を考えることが主題ですから、この先に進みましょう。
そこで、主語の出番です。ネイティブらしい発想の英語センテンスはI(私)で始まります。「『頭が痛い』って言っているんだから、Iではなくて、my head が主語じゃないの?」と思ったかたはまだ日本語に引っ張られているのです。
I が文頭に、後半にはHeadacheが入ることが決まりました。すると、自分の思いは、
I have a slight headache today.
となって口から出てくるでしょう。
日本語の「頭が痛い」が、英語では「私は頭が痛い」へと変換されているのです。
日本語⇒英語は語順が全然違うから難しい
日本語は頭でっかち、英語は尻でっかちな構造です。上記の例における「今日はちょっと」という部分が英語では後半で来ています。これだけ語順が違うから英語を口にするのが大変なのです。
「日英の語順ってそんなに違うの? そんな気もするけど、まだ納得できないなあ」とおっしゃる方のために、日本語がいかに頭でっかちか、よく耳にする文言で確かめてみることにしましょう。
(1)ご家庭やオフィスでご不要になりましたテレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、パソコン、コンロなどはございませんか?
(2)電車とホームの間が広くあいているところに十分ご注意ください。
(3)保存上の注意として、直射日光、高温、多湿の場所をお避けください。
上記の例文で下線を付けた部分は、英語にした場合に文末に来るところです。つまり、英語では下線を付けていない部分がセンテンスの前の方に来ます。例えば、(1)では英語は”Do you have…?”となります。この後にテレビやエアコンなどが続きます。
ぼくは初めて習った英語の文”This is a pen.”のそれぞれの単語の意味を聞いたときの衝撃をいまだに忘れられません。この英文は「これは・です・ひとつの・ペン」の順番でした。日本語と違う語順が許されるんだと初めて知りました。
ここが英語を話すときに最も厄介なところです。それを解決する単純な方法は短い主語を先に持ってきてしまうことです。人主語を口にしてしまったら、その次はどうなるでしょうか。動詞が来るしかありません(動詞については別の機会にお話しします。)
今度の実例は一見すると、物主語です。それでも、人主語に変換してしまうのが賢いやり方です。
「水曜日は残業なし日だ」
ここで必須語は
水曜日
残業なし です。
だから、英単語スピーキングのレベルでは
Wednesday
No-overtime work となります。
日本語直訳は
Wednesday is no-overtime work です。これで通じます。
今度は日本語にとらわれないで、「今日は残業しなくていいんだ。5時に会社を出るぞ」というウキウキした気持ちを思い浮かべてみてください。日本語の「水曜日は残業なし日だ」は、英語では「私は水曜日は残業なしだ」に変換されるわけです。
その気持ちをIから始めたセンテンスにします。
I do not have to work overtime on Wednesdays.
I can leave office at 5PM on Wednesdays.
I can go home early on Wednesdays.
などが出てくるでしょう。
もちろん人主語が使えない場合もたくさんあります。その場合でもこれまでの原理が応用できます。
例えば、
「ボートの長さは2メートルある」
「富士山の形が綺麗だ」
の場合は日本語では「長さ」「形」が主語ですが、英語では「ボート」「富士山」を主語にします。これらがI (私)の代わりになったと考えるのです。
日本語からの翻訳英語はこうなります。
The boat's length is 2 meters.
Mt. Fuji's shape is beautiful.
一方、英語的な発想では
The boat is 2 meters long.
Mt. Fuji has a beautiful shape.
となります。主語に当たる個所に下線を付けました。英語的な英語ではその部分が短くなっているのが分かるでしょう。
続いて、ここで紹介するYouは「あなた」ではなくて、人間一般を指す場合です。人間一般ですから、この中にI(私)も含まれます。
日本人の家に呼ばれた外国人に向かってぼくが言うセリフです。
「日本では菊の花は持っていかないのが常識だよ」。
実はぼく自身が菊をもらったことがあります。まさかもらった当人が苦言を呈するわけにもいかず、ぼくはそのことをアメリカ人の友人には言えませんでした。「菊は長持ちするからいいよ」と彼は言っていました。おそらく友人はその後も菊を持っていったことでしょう。誰かが言ってあげなくてはいけないのです。そこで、ぼくは今では機会があれば外国人の友人には上記のように諭しています。
ここでの必須語は
菊
いかない
ですから、
Chrysanthemum, No.
で通じます(菊は難しい単語ですから、その場に菊があれば、This flowerで十分です)。
これだけでは聞き返されるかもしれまんが、最終的に相手はこちらの意図を読み取ってくれます。
これに対して翻訳英語を見てみましょう。
日本語の文の主語は「持っていかない」ことですから、このような長い主語はItでまず置き換えて文をつくります。
It is common sense not to take chrysanthemum in Japan.
となります。
これでも十分に伝わりますが、It を用いずにYouで始めれば、以下のようになります。
You do not take chrysanthemum with you in Japan.
となります。
Youで始まる英語には「常識」という言葉がありませんが、一般人のYouの中に含まれています
なお、You が一般人を指すのか、相手だけを指すのか分からなくなることがあるのではないか、と疑問に思うかたが居るでしょう。上のような英語を言ったときに、「それって、特にぼくが菊を持っていかないほうがいいと言ったの? それとも一般的な話?」と聞き直されることはないかという疑問です。ぼくの経験では相手にYouの意図が明確に伝わらなかったことは一度しかありません。
もう一つ覚えておきましょう。Theyは政府、会社、団体、一般的な人を指します。Youとの違いはTheyには自分が含まれていないことです。
「米国では車は右側通行だ」 は
In the US cars run on the right.
が翻訳調の英語ですが、主語をCarsにしないで、Theyを主語にします。
They drive on the right in the US.
とするときれいな英語になります。ここまで来たらベテランです。
実はぼくが英語初心者のころはこうしたYouやTheyが使えませんでした。「一般人のYou」という語法を知らなかったのではありません。知っていても口をついて出てはきませんでした。
疑問文を口にする余裕がなかったように、こうしたYouやTheyを口にする余裕がなかったのです。ぼくはI(私)を使っていました。必須語を探すこと、それをつなげることに集中していて、主語についてはあまり考えない。できるだけIで通す方針でした。
つまり、菊の例なら
I do not take chrysanthemum with me in Japan.
と言っていたのです。それでも、
It is common sense…
でセンテンスを始めるよりよかったのではないかと思います。これだと、「こんなこと、常識だよ。君は常識ないよね」といったニュアンスになっていたでしょう。意味が正しいかどうかより、相手を不愉快な気持ちにさせないかどうかのほうが大事です。慣れない方はYouやTheyはあと回しで結構です。
一方、この「人主語」を先にする作戦は後回しにしないで、できるだけ早くから取り組んだほうがいいでしょう。英語で考える癖を付けるに比較的簡単な方法だからです。必須語を思い浮かべ、Iと言い始めたとき、あなたはもう英語らしい英語を口にしているのです。